人工知能( AI )は様々な分野で活用されていますが、メタバースが実用化されていく過程で不可欠な技術となるでしょう。ライフサイクルの点から見ても、初期の「過疎化」の問題の解決から、マスアダプション時の「オンポーティング」問題、更に熟成した時期における世界の作成と維持までAIは重要な役割を果たす存在になることが期待されています。
メタバース空間は急速に拡大していて、業界の市場規模は2022年の1,002億7千万ドルから2029年には1兆5,275億円に成長すると予測されるほどです。しかし、これらの新しいプロジェクトのうち、設定された実際のビジョンを実現できるものはどれほどあるのでしょうか?
真のメタバースが実現するまでの道のりは遠い
これまで発表されたメタバースプロジェクトの多くは、ゲームの世界にあります。しかし、これらのプロジェクトは、単に標準的なゲーム機能に仮想現実やNFTを組み合わせたものであることが多く、アナログ世界のデジタルパラレルワールドという意味での真のメタバースではありません。つまり、参加者が自己組織化された様々なグループや環境の中で多様な社会・経済・娯楽・芸術活動に参加できるデジタルシミュレーションリアリティは、まだ実現されていないのです。
この目標を実現するためには、ユーザーが簡単に行き来できる環境、多数のワイルドで多様なメタバースシャード、そして新しい場所や空間をユーザーが簡単に構築するできるツールが必要であり、そのための技術開発がまず必要になります。
メタバースが過小評価されている理由の一つに、長期的にユーザーに価値を提供するためには、人工知能の活用が不可欠でありながら、その実装が遅れている点にあります。マーク・ザッカーバーグはこのことを明確に認識しているようですが、メタバースに参入してきている大半の企業で、AIを重視しているところは少ないです。そこで、1つAIがメタバースを改善する可能性のある具体例を見てみましょう。
「メタバース過疎化」問題の解決に AI を活用
新規にメタバースおけるサービスを展開する上で問題になるのは、人口の少ない世界にアーリーアダプターを送り込むことです。SNSと同様、ある程度のユーザーアクティビティがないとメタバースの魅力は発揮できず、ユーザーが離れてしまい、結果として「過疎化」してしまいます。
さらに、現在160以上の企業が独自のメタバースサービスに取り組んでおり、それぞれがメタバースのリーディング・プロバイダーとなるべく競い合っています。これはエンドユーザーにとってより多様な環境が用意されているので、自分にあったサービスを選択することができるという利点もあるのですが、各プラットフォームにおける人口がまばらになってしまうという欠点もあります。メタバースとのインタラクションは本質的にソーシャルな体験であるため、これは大きな問題です。
そこでAIで動くノンプレイヤーキャラクター(NPC)を導入することで、メタバース過疎化の問題を解決する考えが注目されています。新しい世界で初期のユーザーの一人になることはパイオニア的で優越感を感じるかもしれませんが、そこに交流する人がおらず、面白いことをする人がいなければすぐに飽きてしまうでしょう。しかし、AIキャラクターが構築し、会話し、音楽を奏で、芸術を作り、売買する社会は、メタバースのゴーストタウンをデジタル活動のきらめく環境に変えることができます。
その結果、無数の生き生きとした世界が生まれ、より多くの人々がメタバースに参加するようになり、最終的にはノンプレイヤーキャラクター(NPC)が必要ではなく、むしろ「おまけ」的な存在として存在するところまで到達するでしょう。
メタバースでユーザーを「オンボード」する仕組みとしての AI
多くのテック企業が独自のメタバースに取り組んでいるため、ユーザーは交流したいメタバースを選択する能力だけでなく、個々のメタバース間をシームレスに移動する能力も必要となります。それにはブロックチェーンが不可欠なツールとなります。
ブロックチェーンは、シャード(shards)間の財産の移動を容易にします。シャード(shards)は、ブロックチェーンネットワークを構成する管理しやすい小さなデータのかたまりで、この技術の特徴により、ユーザーはそれぞれのユニークなメタバース間を簡単に移動することができるようになります。しかし、世界間の移動には別の問題も存在します。それは、ユーザーが新しい世界に入るたびの「オンボード」の問題です。
2026年には、25%の人が毎日メタバースを利用するようになると予想されています。初めてメタバースに足を踏み入れるユーザーから、メタバースの世界を行き来するテクノロジーに精通したユーザーまで、誰もが新しいメタバースで時間を過ごすためには「ガイド」的な存在が必要になります。
これだけ多くの人が異なる世界を訪れるようになると、様々な世界での「オンポーティング」を人間が管理することは不可能になります。そこで、最も効果的に各メタバースを紹介する方法として、AIガイドを導入することが一般的になってくるのではないでしょうか。ガイドは、個々の世界の必要な情報をすべてユーザーに説明することができ、最高のユーザーエクスペリエンスを実現することができます。
真のデジタルワールドの構築
AIがメタバースにもたらす最も大きい影響は、おそらく世界構築の領域にあります。AIプロバイダーは、トランスフォーマー・ニューラルネット(AIの処理能力)、ニューロシンボリックAI(高度な学習能力を持つAI技術)、および関連技術を使用して、各ユーザーに合わせたシナリオを生成できるようになるでしょう。これはユーザーが希望するシナリオについていくつかの詳細を記述し、AIに当該シナリオの完全な記述を生成させることで機能します。
次に、プロバイダーは、入力された言葉の説明を、バーチャルリアリティ技術を使って実現する別のニューラルネットワークを使用することができます。この2つのニューラルモデルを組み合わせることで、シナリオの可能性についてユーザーから部分的な提案を受けると、ユーザーの提案を取り入れ、それを発展させた完全なVR体験を自動的に紡ぎ出すシステムを実現します。
これはより多くのシナリオが生成されるにつれて、時間をかけて微調整されるでしょう。このような機能を活用し、ユニークなコンテンツを作成するユーザーのコミュニティが十分に大きくなったら、AIを利用してデータマイニングを行い、共通のパターンを探し、それを使って追加の素材を生成し、ユーザー誘導型のコンテンツ作成に偏りを持たせることができます。
そして、現実的なシナリオと非現実的なシナリオを人間の心理から推定し、インタラクティブなストーリーテリングのインターフェースを使って、各ユーザーが体験したいユニークなシナリオを選択できるようにするのです。AIは、最終的にメタバース内で没入型コンテンツを作成するために使用されるでしょう。
これらのユースケースはすべて、VRやブロックチェーン技術と連携するAIサービスの必要性を強く示しています。メタバースが普及するにつれて、必要な技術の創造を支援するための資金が投入されるでしょう。AI技術が適切に展開されることで、メタバースの真のポテンシャルが引き出され、アナログ世界と共存するエキサイティングなデジタルランドスケープが開発されることでしょう。
参考文献:AI will help realize the true vision the Metaverse hopes to achieve