インターネット上の ドメイン はICANNが中央集権的に管理し、秩序が守られてきました。しかし、ICANNの管轄外である「分散型」ドメイン名の登場は ドメイン 業界に大きな混乱を招いています。特に、「分散型」ドメイン名による第三者の知財侵害の可能性は高く、そのような問題を解決する手段が未だに確立されていないことが懸念されています。
「分散型」 ドメイン の市場
canon.rskやelonmusk.rsk、iphone.rskなどのドメインがrifというサイトで売られています。これらは、「ブロックチェーンドメイン名」、「Web3ドメイン名」、「暗号ドメイン」、「NFTドメイン名」、「分散型ドメイン名」などと呼ばれています。ここでは法的な問題を話すので、便宜上「分散型ドメイン名」と呼びたいと思います。
すでに「分散型」ドメインの市場はあり、様々なプレイヤーがいます。例えば、888、BITCOIN、.BIT、.COIN、.CRYPTO、.ETH、.NFT、.WALLET、.Xなどの「トップレベルドメイン」が活動し、Unstoppable Domains、 Ethereum Naming Service、RIF Name Service、Stacksなどの事業者が分散型ドメイン名を発行し、OpenSea、Rarible、RIFOSなどの二次市場プラットフォームがマッチメーカーとしての機能を果たしています。
古典的な市場の問題は「中央集権的」な仕組みで解決されてきた
古典的なドメインネームシステムは、Internet Corporation for Assigned Names and Numbers(ICANN)とInternet Assigned Numbers Authority (IANA)によって管理されています。詳細は省きますが、法的なアーキテクチャは技術的なアーキテクチャに対応するものであることを念頭に置く必要があります。ピラミッド型で中央集権的なこの「ICANN中心」の法制度は、ICANNに、トップダウン方式で、gTLD(Generic top-level domain)レジストリおよびレジストラに調和と予測可能な契約条件を課す正当な権限を与えています(主権領域との関連から、ccTLD(Country code top-level domain)レジストリにはより多くの自由が与えられています)。
この契約条件には複雑な条件もありますが、大原則として2つの事柄が決まっています。1つ目は、すべてのドメインネーム保有者は、その識別に必要なデータを提供しなければいけないこと(これらはWhoIsデータです)。2つ目は、ドメインネーム保有者は、ドメインネームの所有権について裁定する権限を与えられた第三者の裁定者の管轄権を受け入れなければならず、その決定の執行はほぼ自動的なものになっています。つまり、ドメイン名の所有に関する問題は、この独創的な法制度によって、国家の司法に取って代わる形で解決されています。
「分散型」 ドメイン はICANNの管理外で無法地帯?
非中央集権的なドメイン名についてはどうでしょうか?
これらはICANNが管理する命名システムには属しません。そのため上記のような「中央集権的」な法秩序の縛りを受けず、独自の契約要素を形成しています。よって、ICANNは知的財産権所有者に法的予測可能性を提供していますが、現段階では、「分散型」ドメインに関しては発展途上であって、ICANNが提供しているような法的問題を解決する代替システムがないのが現状です。
ブロックチェーン技術に基づく代替ネーミングシステムの運営者に共通する主張は、分散型ドメイン名は検閲を受けないというものです。確かに、発行者は独自の秘密鍵をエンドユーザーに交付しています。つまり、DNSドメイン名のレジストラとは異なり、分散型ドメイン名の発行者は、エンドユーザからそのようなドメイン名を剥奪するような権利を持ちません。さらに、DNSレジストラとは異なり、分散型事業者はICANNに対して説明責任を負いません。また、分散型ドメイン名の移転や取り消しを要求するUDRP(Uniform Domain-Name Dispute-Resolution Policy)型の決定の対象にもなりません。
「分散型」 ドメイン は画期的なサービスなのか、破壊をもたらすものなのか?
「分散型」ドメインシステムは、事業者が主張しているように表現の自由に対する有効なサービスかもしれません。また、すべての人に自分自身のデータの安全な所有権を約束する、新しい「カタチ」なのかもしれません。また、分散型ドメイン名の発行は、原則的に合法的かつ正当な商業活動であることも前提に考えることが必要です。
しかし、このような法的方向性はユートピア的で幻想的な考えであるように思えます。事実現状の「分散型」ドメインの仕組みでは、エンドユーザーが犯罪を犯したり、第三者の権利を完全に侵害したりする手段を提供することになります。
民主主義国家の柱である不法行為法は、破壊的イノベーションの前でもひるむことはありません。1990年代、リバータリアン思想は、自己規制が可能であるとされるサイバースペースは、国家の法制度の外にあり、そうあるべきであると主張しました。しかし、度重なる法律違反や第三者の権利侵害を考慮し、立法者は、事業者が契約上のパートナーやサイバースペースでの不正行為の加害者を特定することを要求する手段を裁判官に与えてきました。
時代がweb1やweb2であろうと、法律による規制はでき、その秩序の上でインターネットが活用されてきたので、web3になってもおそらく同じような方向性で法整備が進むはずです。例えば、不正行為者を特定し追求するための技術が確立されたら、Web3事業者は、寄与侵害の原則によって、その責任を問われることになるでしょう。さらに、裁判官は潤沢なリソースを持っていながら、知財保護を真剣に取り扱わない企業を厳しい目で批判します。そうでなくても知的財産権保有者、投資家、保険会社からの圧力により、事業者に対する知財を保護するような仕組みを法的に整備し、規制する動きは今後加速していくと思われます。
新しい法的なモデルが必要になる?
現在、事業者の一部は協力して知的財産権の侵害を制限するためのソリューションを提供しています。しかし、まとめるのは難しく、モデルも複数存在して不一致です。そのため、業界における標準化が今後求められていくところでしょう。
これらの問題は、商標、デザイン、著作権の所有者にも影響するので、メタバースの運営者が知的財産権の所有者全般を代表する団体と全面的に協力することが最大の利益となるはずです。少なくとも、知的財産権所有者に対して、すぐに目に見える通知やテイクダウンのプロセス、および知的財産権法に反するドメイン名やその他のNFTの削除を規定する法的手続きを提供することは、すべての利害関係者にとって良いことではないのでしょうか?
このような規制モデルができれば、「icannian」システムとの共存ができるかもしれません。あるいは、DNS以外の事業者は、ICANN以外の新しい法的モデルを作り出すのかもしれません。