著作権 が切れた作品にNFT技術を用いてその価値を再定義することができれば、デジタル出版業界に革命が起こるかもしれません。著作権の枠に縛られない価値を生み出すことで、ファンを楽しませ、継続していける環境を作る、そんな取り組みが今後NFTを用いて行われていくのかもしれません。
デジタルアート以外にもNFTの用途はある
NFTといえばデジタルアートを思い浮かべる人が多いと思いますが、他にも様々な形で存在し、単なるアート以上のものを表現しています。
例えば、音楽業界では、Kings of Leonなどのミュージシャンが最新アルバムをリリースする際にNFTが使用されています。スポーツ業界では、NBAなどの主要なスポーツイベントのハイライトを記録するためにNFTが作成されています。消費財業界では、ナイキ、グッチなど多くの企業が、デジタルブランド製品をNFTの形で販売しています。
このようにNFTの実世界での応用は多彩な中、今回はデジタル出版業界に注目したいと思います。
NFTがデジタル出版業界に革命を起こす?
NFTを使った書籍の出版や販売促進がもたらす可能性については、すでに多くの人が議論しています。例えば、Alliance of Independent Authorsは、インディーズ作家がNFTを使用して最新作のプロモーションを行うことを支援しています。その他、キャラクターカードなどファンクラブの関連グッズもNFT化されています。Tezosネットワーク上に構築されたプロジェクト「Tezos Farmation」では、ジョージ・オーウェルの「動物農場」の全文を使って1万個にスライスし、NFTのタイトルとして使用することもあるそうです。
既存の書籍から作成されたNFTは、通常、著作権に縛られます。しかし、Tezos Farmationの場合、著作権はすでに切れていました。そのため、書籍の文章はどこの誰が使っても無料で利用できるようになっています。
このような著作権切れのコンテンツを利用したNFTプロジェクトは今まではなかった問題提議をしています。それは、「著作権の切れた本の著作権や印税を、NFTはどのように保全することができるのか?」です。
出版業界におけるNFTの応用は、今のところ、まだ印税があり、著作権の寿命がまだある書籍が主な対象です。しかし、著作権が切れた後も親しまれている作品があります。そのような作品をNFT化することによって、著作権による印税とは別の手段でマネタイズできるのでしょうか?
もしNFTを用いることによって、著作権の枠以外でのマネタイズが可能になれば、デジタル出版業界に大きな変化が起こる可能性があります。
著作権からパブリックドメインへの道
著作権法は複雑で、世界各地で大きく異なっています。国際条約に沿った著作権保護がない国もありますが、ほとんどの法域では、著作権は著作者の生涯に加え、死後最低25年間は保護されるという前提で動いています。
欧州連合(EU)では、著作権は直近に生存している著作者の死後70年間保護されます。米国でも同様で、1927年から1978年にかけて出版された書籍は、最初の出版から95年間保護されるという例外がある。このように著作権による保護の期間が国や地域やその他の状況で変わるものの、十分な時間があれば、どんなものでも著作権保護の期間が終わり、誰もが使えるパブリックドメインになります。
著作権切れの人気作品の価値をNFTで再定義する
著名な文学作品がパブリックドメインになると、その作品の将来的な価値は、基本的にゼロになります。しかし、商用的な価値は著作権と共になくなるかもしれませんが、その作品の価値を認める一定のコミュニティは著作権保護終了後も残ることが多くあります。
そこで、このようなある意味無形の資産である「人気」をNFTという形で具現化できれば、著作権を保有する管理団体の新しい収入源になるかもしれません。
この戦略がうまくいきそうな最近の例は、「くまのプーさん」です。くまのプーさんは、イギリスの作家A.A.ミルン、イラストレーターE.H.シェパードによって生み出された架空の擬人化されたテディベアで、世界中のファンから愛されている作品のいい例です。このキャラクターを題材にした最初の物語集が作られたのは1926年。約96年の時を経て、2022年1月1日に著作権が切れ、パブリックドメインに移行しました。このような世界的に有名なアニメキャラクターの商業的価値はあり、ディズニー社は著作権保護されている作品については引き続きマネタイズしていくようですが、著作権がすでに切れた「くまのプーさん」の遺産からは、著作権の仕組み上、将来の価値を受け取ることはできません。
しかし、NFT化できれば価値の再定義ができ、新しい収入源になるかもしれません。特に著作権が切れるまでは、第三者は作品に手が出せず、権利管理団体であるエステートだけが著作物を取り扱うことができるます。例えば、著作権が切れる前に、エステートが作品のNFT化に興味を持つファンとつながり、ファンの心に響くプロジェクトを構築し、著作権期間終了前にNFTコレクションを発売していたらどうでしょうか? 「くまのプーさん」で同じようなことができていれば、また違った付加価値が生まれ、そこから新たな価値が創造できたのかもしれません。
NFTによる再定義で出版業界に新しい風を
現在、出版社には、パブリックドメインになりそうな著作権者のエステイトと協力するインセンティブがありません。これは、著作権法で保護されていた権利が終わり、作品に誰でも無償でアクセスできるようになるからです。しかし、著作権切れ(間近)な作品をNFT化し、再度著作権の枠に縛られない「価値」によって再定義できれば、出版における新しいビジネスの形になるかもしれません。
著作権が失効し、作品がパブリックドメインになった後でも、NFTを通してエステートが収入を得ることが可能になります。例えば、ブロックチェーン上のNFTマーケットプレイスでの販売や、初版、限定版、サイン入りビンテージコピーなどの特定の付加価値を付けたコンテンツの販売などが考えられます。
また、NFTの再販に関しては、取引の一部がNFTの発行元に還元される仕組みも取り入れることができるので、継続したマネタイズも可能です。
日本のIPコンテンツは豊富ですが、まだ確立された市場ではないので、今流行っているコンテンツに関連するIPをNFT化することに抵抗感を示す権利管理団体は多いと思います。しかし、著作権切れ(間近)なIPであれば、今までは価値が見いだせなかったものなので、リスクゼロで事業を行うことができます。
実際に事業を行うとなると課題点も出てくると思いますが、NFT化に成功すれば、ゲーム、メタバース、教育など、これから生まれる様々なWeb3メディアにおける活用と新たな価値が創造できる可能性があります。