世界的有名ブランドの エルメス が無許可で「MetaBirkin」というNFTを販売したアーティストを商標侵害で訴えています。NFTと芸術は切っても切り離せないほど密接に関わっていますが、そこに商標を始めとする知的財産がどのように関わってくるのかが裁判所で争われています。また多くの有名ブランドは商標を持っており、この訴訟結果によってはNFT市場における商標問題が顕著化し、市場の方向性を大きく変える可能性があります。
1.商標とNFTの問題を審議している「最初」のケース
ニューヨーク南部地区の裁判所は、Hermès International et al. v. Rothschild case (Case No. 22-CV-384 (JSR))において、NFTのIPへの影響について初めて意見書を発表しました。これはNFTに関わる最初の知財案件の一つで、商標がどのようにNFTに影響を及ぼすかが現在進行系で議論されています。
今回のエルメスの事例は第三者の知的財産を組み込んだNFTによる侵害訴訟です。現状のNFTマーケットを見ると、有名ブランドのマークやデザインを模倣したり、組み込んだり、マネたりしたNFTも出回っているので、今後そのような「便乗」NFTがどのように法で裁かれるのかを示唆するかもしれないということで、今回のエルメスの訴訟は注目されています。
2.有名ブランドとアーティストの対立
次に、今回の訴訟は、世界的に有名なファッションブランドであるエルメスとアーティストの間の争いであるという点でも注目されています。
エルメスは、バーキンバッグで有名な「高級ファッション企業」です。特に、今回のNFT訴訟で主題になっているバーキンバッグは、エルメスの象徴的なバッグで、その価格は数千ドルから数百万ドルに及ぶことがあります。バーキンバッグには活発な転売市場があり、小売価格よりかなり高い値段で転売されることがよくあり、検索すると中古でも高額で取引されているのがわかります。このようなエルメスを象徴するようなバックのブランドを守るために、エルメスは、バーキンのトレードドレスを取得していて、エルメス、バーキンの名前とロゴの商標権も持っています。今回の訴訟では、エルメスが「MetaBirkin」というNFTを発表したアーティスト、Mason Rothschild氏を商標侵害で訴えたことが発端です。
その被告人側のMason Rothschild氏は、「MetaBirkin」というというふわふわした毛で覆われたバーキンのハンドバッグのNFTを発表し、バイラル現象を引き起こした第一人者です。Rothschild氏は100個の それぞれ異なる「MetaBirkin」NFTをミントし、4つのNFTプラットフォームで販売しました。「MetaBirkin」コレクション全体は230ETH、その時の時価で約100万ドルで販売されました。Rothschild氏は、このMetaBirkin」NFTコレクションに対して、「エルメスの最も有名なハンドバッグ、バーキンへのオマージュであり、最も高級でよくできた高級アクセサリーの一つである」と発言していて、バーキンバッグを元にしてNFTを作成したことを認めています。
3.憲法上の保護はどこまで及ぶのか?
アメリカの憲法修正第一条では、言論の自由(Free speech)が保証されており、その「言論」の1つとして、芸術的表現にも憲法上の保護が過去に認められています。今回の訴訟でも、訴えられたアーティスト側のRothschild氏は修正第一条の保護を主張しているので、商標だけにとどまらず、憲法上の問題にも関わる裁判として注目されています。
訴えたエルメス側は許可無く「MetaBirkin」NFTを作成したRothschild氏に対し、アメリカの商標法であるランハム法(Lanham Act)とニューヨークの州法に基づき商標権侵害、商標の希釈化、サイバースクワッティングに関する訴えを起こしています。
一方のRothschild氏は、MetaBirkinsはRogers v. Grimaldiの下で憲法修正第一条の保護を受ける芸術的表現であると主張し、訴訟自体の棄却を求めました。この主張に対してエルメスは、NFTの販売は明らかに商業的利用であり、明確に誤解を招くものであると反論します。
訴訟は継続することに
今回の裁判所の意見は、訴訟が本格的に進む前に訴訟の棄却を求めた手続きに関して出されたものなので、内容としては限定的です。しかし、訴訟は継続することが決まったので、今後訴訟が進むに連れ、より深い審議が行われることが期待されます。
現状で、裁判所は 「作品の商業的側面が芸術的内容と絡み合っている場合、商標を使用したスピーチは非商業的なものとして扱われなければならない」と言う見解と、NFTを販売することは、「物理的な絵画の番号付きコピーを販売することと同様」と言う見解を示し、NFTのようなデジタルアートを販売することが「芸術的表現」となりうるという解釈を示しました。
今回の意見書で読み取れるものは限られますが、少なくともニューヨーク南部地区の担当判事の見解としては、NFTの販売という事実だけでは、必ずしも憲法修正第1条における芸術表現の保護がない商業販売とみなされるわけではないということがわかります。
しかし、まだディスカバリーによる情報開示が行われていない段階なので、今回の「MetaBirkin」が憲法上の保護を受ける対象物なのかはまだ不透明です。また、エルメスが主張している商標権侵害、商標の希釈化、サイバースクワッティングに関しても今後裁判所での審議が必要です。
メタバース弁護士の見解
NFTとアートの関連性は密接なだけに、今回の「MetaBirkin」NFTに関する商標侵害訴訟は今後のNFT市場に大きな影響を与える可能性がある重要な訴訟だと考えています。
特に、今回の意見書から見えてくる裁判所の心証を考察してみると、第三者の知的財産権に関わるNFTであっても、芸術性があり、特定の条件を満たせば、場合によっては憲法による保護を受けられるようにも見受けられるので、裁判所がどのような判決を下し、どのようなルールを判決文で示すのかがとても興味深い点です。
参考文献:Hermès Case Could Determine How Courts Assess Trademark Rights in Connection with NFTs