メタバース時代における 知的財産 のリスク、保護、管轄権、権利執行

メタバースが多くの人々に使われ現実世界と同じような機能を満たすようになるにつれ、 知的財産 における問題もメタバースで増えてくることが予想されます。そこで、今回は商標、特許、著作権を中心にメタバース時代における知的財産のリスク、保護、管轄権、権利執行について考察してみました。

仮想環境で何でもできるメタバース時代と 知的財産 の問題

Web3におけるメタバースがどのように進化していくかはまだ未知数ですが、最終的にはユーザーが買い物、ゲーム、旅行、学習、社交、仕事、競争、その他さまざまな仮想環境での生活を体験するための仮想世界を提供することが期待されています。そうなれば、メタバース内で仮想ショッピングをしたり、オフィスや会議室のような仮想ワークスペースを活用して仕事をしたり、ゲームでも、よりリアルによりリアルタイムで遊べるように進化してくるかもしれません。

このように、ゲーム、仕事、その他の社会的交流など、現実世界で行われていた活動がメタバースでも一般的におこなわれるようになると、メタバースのようなデジタル世界はリアリズムに近づいていくのかもしれません。そうであれば、現実世界で起こっているような知的財産の問題もメタバースで起こってくるかもしれません。

特に現代社会では知的財産の価値が会社の総資産に大きく影響してきます。また、現在のロシアのように適切な知財の保護がないと大手企業はすでに多くの投資をしていたとしても撤退しかねません。そこで今回は、メタバース時代における知的財産のリスク、保護、管轄権、執行を考えてみました。

1. ブランドの保護と権利行使

ブランドオーナーは、メタバースにおいても新規顧客や既存顧客との繋がりを求めてくると思われます。そうであれば、現実世界と同様に、メタバース内でも自社ブランドを商標保護によって保護し、仮想世界で使用されるブランドの使用を取り締まることが重要になってきます。

物理環境と仮想環境の間で共有される可能性のある世界を視野に入れると、ブランドオーナーは、物理世界のものと同様に仮想の商品やサービスの保護を検討する必要があるでしょう。そのため、自社マークや製品がメタバース内でアバターに使用されたり(アバターのシャツにロゴが表示されるなど)、仮想世界のオブジェクトとして使用されたり(ビデオゲームに特定の車が登場するなど)されていないかを監視し、適切な取締活動を行う必要があるでしょう。

今日までで、NFTで表現されたバーチャル商品の商標保護の問題を扱った訴訟は2件あります。1つはMetaBirkins事件で、エルメスがバーキンバッグの仮想表現を含むNFTをミントしていた個人に対して商標権侵害で訴えています。2つ目も似たようなケースで、ナイキが、ナイキの靴を表現したNFTを販売したとしてStockXを訴えました。この2つの事件についてはまだ訴訟が継続していますが、これまでのところ裁判所はNFTとメタバースに対する従来の商標保護の概念を尊重しています。

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これらの訴訟ではメタバース関連の商標の権利行使はされていませんが、それでも多くのブランドは「メタバース時代」に先駆けて現実世界の商品やサービスをメタバースやNFTで表現するために多くの商標を申請しています。

2. イノベーションに伴う新しい発明の保護と権利化

メタバースの構築には多くのイノベーションがあり、今後もその発展に伴い多くのイノベーションがおこることでしょう。イノベーションには、物理的または仮想的な製品を購入するための新しい方法、メタバース全体で使用するための暗号通貨、物理世界と仮想世界を接続するための物理アイテムと仮想アイテムの紐付け、さらには人工知能、ブロックチェーン、通信プロトコル、クラウドコンピューティングを含むインフラに関連するものなど多彩な技術が含まれます。メタバース技術のイノベーションは急速に進んでいるため、様々な側面が特許化される可能性があり、技術の進歩と共にメタバースに関する様々な特許が出てくると思われます。

3. メタバース内の著作権保護で監視が重要になってくる

メタバースの利用が一般化するに連れ、著作権者はメタバースにおける著作権表現を監視するようになってくるでしょう。仮想世界では、あらゆる物理的なものが表現される可能性があるため、絵画や彫刻などの様々な芸術作品がメタバース内の仮想環境に登場する可能性がありっます。また、映画のワンシーンや劇中歌、さらには本や映画のキャラクターをインタラクティブなキャラクターとして表示することも可能です。

デジタル・アートワークのようなデジタル・アイテムを保護する著作権もありますが、仮想環境では、そのような保護への理解がより重要になってくるかもしれません。また、メタバース内でいろんなものを作成するソフトウェアや機能にユーザーがアクセスし、簡単にコンテンツを作成できるようになったら、メタバースでは著作物の盗用が増えてくるかもしれません。もしそうであれば、著作権者は直接メタバースを活用しないのであっても、メタバース内の著作物の監視をしていくことが必要になってくるかもしれません。

4.メタバースという特殊な環境下での裁判と権利行使の難しさ

インターネットというバーチャルな空間は、特定の国や地域の法律に依存する固有の知的財産権をどこで行使するかを決める際に大きな問題の1つとなります。また、メタバースでは、物理的な世界よりも匿名性が高く、侵害者の特定が困難となる場合があります。そのためメタバース内でおこる知財侵害に対する訴訟は困難なものになる可能性があります。今後どのような法整備が行われるかはわかりませんが、既存のインターネット上での問題を解決する仕組みの延長線のようなアプローチが取られることになるでしょう。

参考文献:Intellectual Property Risks in the Metaverse: Protection, Jurisdiction and Enforcement

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