ファッション の世界とメタバースが融合することで今までのファッションの価値観が大きく変わるかもしれません。デジタルファッションに身近な若い層を中心に「革命」が起こると主張する専門家もいる中、一過性の「ブーム」に過ぎないと主張する業界人もいます。しかし、多くのファッションブランドがメタバースへ参入しているので、今後の動きに注目する価値はあるでしょう。
メタバースにおけるデジタル ファッション がファッションの未来?
デジタルファッションの根底にある考え方は、多くの人にとって理解するのが難しいかもしれません。しかし、最近、このニッチなマーケットが人気を博していることから、多くの専門家が、メタバースがファッションの未来を作り変えるという考えをより真剣に捉え始めています。
例えば、最近の研究によると、デジタルの世界にしか存在しない衣服は、物理的なものよりもはるかに環境に優しいことが分かっています。それだけでなく、企業のデザイン・開発段階において、物理的なサンプルをデジタルに置き換えることで、ブランドの二酸化炭素排出量が30%も削減できるというデータもあるそうです。
さらに、デジタル衣料は、実際の衣服の生産に先立つさまざまな段階でも非常に有効です。例えば、バーチャル・アイテムをモデル化し、サンプリング、マーケティングに活用することで、ファッション・アイテムのライフサイクル全体における環境負荷を大幅に軽減することができます。
また、販売面では、現在のファッション業界で大きな障害とされている過剰生産の問題をデジタルモデルによって軽減することができます。
デジタル ファッション の魅力
デジタルファッションが単なる一過性の流行なのか、それとも今後も続く現象なのか、Trace Network LabsのCEOであるLokesh Rao氏の見解では、メタバースが進化し続けることで、ファッション業界に影響を与え、革命を起こすのは確かであると訴えています。
「バーチャルな世界は、想像の世界でありながら、実は衣服の世界では非常に有用であることに、業界は気付いています。デザイン技術の進化は、デザイナーに自由を与えますが、彼らがデザインした服は、現実の世界では決して着ることができないものもあります。デジタルアバターは、種類やデザイン、生地、用途の制約を受けることなく、どんな服でも着ることができるのです。」とLokesh Rao氏はコメントしています。
さらに、メタバースにおけるファッションは、物理的な衣服が不要なため、ユーザーが実験的に豪華な服を作ることが容易になり、現実世界では不可能なほど壮大なものになると述べました。さらに、服はデジタルコレクティブトークン(NFT)の形をしているので、オープンなNFTマーケットプレイスで自由に取引することができ、多くの物理的な服や中古の服にはない長期的な価値を付加することができるとのことです。
しかし、Rao氏は、ファッション業界におけるメタバースの最も重要な効用は、デジタル世界において、ユーザーが自分のアバターを配備してさまざまな店舗を訪れ、さまざまな服を試着してから購入を決定できることだと考えています。「これは、高価な実店舗を複数の地域に持つよりもはるかに優れています」と指摘しています。
メタバースは、企業やレーベル、ファッションハウスにとって、物理的な制約を超えたボーダーレスな存在として、デジタル手段で世界的にブランド認知度を高め、顧客に利便性を提供しながら「フィジタル」(phygital: physicalとdigitalを掛け合わえた造語)な服を小売できるなど多くの利点を享受することができます。
デジタルファッションのメリットは企業側だけでなく、消費者にも多くあります。例えば、自分の都合や時間、場所に応じて試着ができたり、仮想店舗に物理的な形式またはNFTとして衣服を注文できたり、世界中のどこからでも配送の注文を行うことができたり、ブロックチェーン上で永遠に所有権を維持できたりします。
ファッション の未来は再定義されるかもしれない
ユーザーが自分のメタバースを作ることができるプラットフォーム「Pax.World」の創設者であるFrank Fitzgerald氏は、この2つの世界の融合がファッション業界に大きな影響を与える可能性があると考えています。
「新しい収益発生の流れから、メタバースで起こっていることに基づいて現実世界でファッションがどのように見えるかを形作ることまで、それはファッションだけでなくアート業界内でも同様に文化革命となるだろう。」とFitzgerald氏はコメントしており、若い世代がデジタルファッションの重要な層であり、特にデジタルでの表現が社会的アイデンティティの重要な一部であると考える層であると述べています。
30代以上の世代は、このような考えを理解するのが難しいかもしれませんが、時間が経てば、より多くの人が新しいファッションの考え方に賛同してくるのではないでしょうか?「今後10年間で、20代と30代の全世代が、自分のデジタル表現と、それが同僚や友人に対して何を表現しているかを強く意識するようになると思います」とFitzgerald氏は述べています。
業界人でも悲観的な考え方を持つ人もいる
ブロックチェーンベースのゲーム「Clash of Coins」を運営するOneWayBlockの創業者Stepan Sergeev氏は、現状ではファッションに興じるほとんどの人はまだメタバースにいないため、
デジタルファッションがすぐに世界を席巻するという考えを信じてはいません。
「例えばデザイナーズドレスを買う意味は、それを着ている姿を人に見てもらうことです。メタバースにはまだそれを見てくれる人が少ない状態だと、その社会的価値は失われてしまいます。ですから、メタバースに人が大量に移動するようなことがない限り、ファッションに対する考え方に大きな変化は起きないと思います。現実の作品のより詳細なデザインを見ることができるという点でファッションを変えることはできるかもしれませんが、普通のドレスと同じようにNFTのドレスを買うことはないでしょう。」とSergeev氏は話しています。
また、ソーシャルVRプラットフォーム「Sensorium Galaxy」の副CEO兼アートディレクターであるSasha Tityanko氏は、メタバースはファッション業界の既存の体験にプラスになることはあっても、革命を起こすまでには至らないだろうと語っています。彼女の見解では、ファッションブランドは変化と大胆な行動で成長し、新しい基準を設定することは彼らのビジネスの本質に過ぎないと、指摘しています。
ファッション レーベルのメタバースへの参入が急速に進む
2022年の間に、Adidas、Nike、Gucciなどの多くの主要ブランドが、NFTの売上だけで1億3750万ドルを稼いだと報告されています。Dolce & Gabbanaは、昨年末、デジタル・グラス・スーツという史上最高額のスーツを販売し、100万ドル(約1億円)を売り上げたという記録を打ち立てました。
さらに、D&GのNFTコレクションは600万ドルの売上を記録し、Gucciのクイーンビー・ディオニソスのバーチャルバッグは最近35万Robux(スキンやアクセサリーを購入するための人気のゲーム内通貨)または4000ドルで売却されましたが、これは現実の評価額を上回るものです。
2021年第4四半期、Louis Vuittonは、プレイヤーがメタバース内に隠された30のNFTを狩ることができるビデオゲームをリリースしました。これらのアイテムを集めると、所有者はさまざまな限定イベントやプライベートパーティーに参加できるようになります。同様に、Balenciagaは最近、3億人以上のユーザーを持つビデオゲームであるフォートナイトと提携し、ハイファッションのスキンをプレイヤーに販売しました。一方、Ralph Laurenは韓国のソーシャルネットワークアプリ「Zepeto」と提携し、プレイヤー向けにバーチャルファッションコレクションを発表しました。
リアルとバーチャルのギャップが縮まり続け、Web3が新たな技術的進歩をもたらすことで、一般消費者が自分を表現する選択肢がますます増えていきます。「誰もがBalenciagaのドレスをリアルで買えるわけではありませんが、デジタル世界では買う時代が来るかもしれないと」とSasha Tityanko氏はコメントしています。
彼女はさらに、Gucci、BurberryやLouis Vuittonなどの多くのファッションハウスがデジタル市場の可能性を認識しているため、すでにWeb3空間の探索とテストを専門とする相当な数のチームを持っていることを指摘しました。Tityanko氏は、「Vice Media Groupの調査によると、Z世代は実生活の2倍の時間をデジタル空間での社交に費やしています」と述べています。
このように、非中央集権的なテクノロジーが支配する未来に向かって、ファッション業界の未来がどのように展開し続けるのか、特に、日を追うごとに多くのブランドがメタバースに参入し続けることが興味深いところです。
参考文献:How the Metaverse can revolutionize the fashion industry