NFT 自体はコードの羅列で、 NFT メディア(NFTに関連付けられている画像など)とは別のものです。そのためトークンであるNFTそのものは著作権侵害にならないと考えることができるものの、実際にはここで説明する中国における訴訟のようにNFTと関連付けられているNFTメディアを同一のものとして著作権侵害を判断している事例もあります。そこで今回はこれらのNFTに対する対極的な取り扱いを比較・検討してみたいと思います。
NFT が一品物である技術的特性
NFTはすべて一点ものです。そのユニークさは、NFTが少なくとも2つの重要な要素、tokenIDとcontact addressで構成されていることにあります。tokenIDはトークン生成時に生成される番号で、contact addressはブロックチェーンスキャナーを使って世界中のどこからでも見ることができるブロックチェーンのアドレスです。この2つの要素の組み合わせにより、NFTはブロックチェーンネットワーク上で作成、保管、譲渡され、その所有権と取引履歴がそのネットワークのブロックチェーン上に記録、検証された唯一無二のデジタル資産となります。
NFTにリンクされたNFTメディアは多くの人がアクセスできますが、NFTにNFTメディアのデジタルロケーションをプログラミングすることで、オリジナルのデジタル作品のロケーションがトークンに永遠に刻まれることになります。つまり、NFTの所有者は、第三者の仲介を必要とせず、自分が検証された所有者であることを証明することができるのです。デジタル世界におけるNFTの重要性は、著者のサインや有名スポーツ選手のジャージーのサインに例えることができます。それはどれほどの価値があるのでしょうか。それがNFT、つまりデジタル世界における唯一無二のサインです。
NFT は著作権侵害にはならない?
NFTは著作権保護の対象であるか否かを問わず、著作物を使用してエンコードされたメタデータファイルであるため、この事実から生じる論理的な疑問は、NFTと著作権の関係は何かということです。
NFTの普及と芸術作品との関連は、NFT関連の訴訟の増加につながっています。例えば、制作会社のミラマックスは、映画「パルプ・フィクション」に基づくNFTの競売を計画しているとされるクエンティン・タランティーノ監督を、商標権侵害、著作権侵害、契約違反、不正競争により訴えました。しかし、NFTは著作権を侵害するのでしょうか?
一歩さかのぼって考えてみましょう。アートワークを複製したNFTの所有者が物理的なアートワークも所有しているという混乱が広まっています。デジタル資産の購入に何百万ドルも払うのであれば、コードの羅列以上のものを手に入れることになると考えるのは当然かもしれません。しかし、実際には、購入者が取得するのは単なるコード列です。
もちろん、NFT取引にはトークンに関連するアートワークの権利譲渡が含まれる場合もあります。NFTの売り手がNFTとして複製されるアートワークの著作権者でもあり、そのアートワークの著作権をNFTの買い手に譲渡するという事態も考えられますが、今のところそのような事態は稀です。
しかし、NFTはオリジナル作品でもコピー作品でもなく、コードの羅列であることを考慮すれば、保護された作品を無許可でコピー、販売、複製しているわけではないので、著作権侵害にはならないと考えることができます。
一方、バンクシーの認証機関であるペストコントロールが、NFTシリーズはバンクシーとは無関係であることを明らかにした後、NFT取引プラットフォームが有名ストリートアーティストであるバンクシーの作品のNFTをミントしたアーティストをブロックしたという興味深いケースもあり、知的財産権が仮想世界でも適用されることが示唆されています。
アンドレス・グアダムスによるWIPOマガジンの記事(「Non-fungible tokens (NFTs) and copyright」、2021年12月付け)で説明されているように、3つの要件を満たす場合、著作権侵害が発生する可能性があります。
- 著作者の独占的権利(複製、出版、貸与・賃貸、公の実演、翻案、公衆への伝達)のいずれかを無断で利用したこと。
- NFTと原作品との間に因果関係があること。
- 著作物全体またはその相当部分が複製されたこと。
しかし、NFTがこれらの要件をすべて満たすとは考えにくく、NFTに関連する著作権侵害が発生することは考えにくいです。
中国では裁判沙汰になっている
それでも、中国では、2022年4月に、NFTと著作権の関係に関する初の判決が出されました。概要としては、杭州インターネット裁判所(これは中国にいくつかあるインターネット専用の裁判所で、2017年に設立されました)が、NFT取引プラットフォームとそのプラットフォームでNFTを販売する無許可ユーザーに対して、その販売による著作権侵害の連帯責任を認める内容の判決を下しました。この事件は、原告が作者である馬乾麗と「著作権ライセンス契約」を締結して著作権を取得し、その後NFTとしてミント・発売した「Fat Tiger Vaccination」という作品について、原告馬乾麗が提訴したものです。
杭州インターネット裁判所は、デジタル著作物のコピーがNFTの形で取引プラットフォーム上に存在する場合、それは特定の「デジタル商品」として設定され、NFT取引は本質的に、一定の投資および収集価値の属性を呈する「デジタル商品」の所有権の移転であると判断しました。また、デジタル著作物の複製物がサイバースペースに保存され、固有のNFTポイントを通じて交渉可能な商品となった場合、法的に保護された財産的利益が生じるとしています。これを踏まえ、法院は、NFTデジタル著作物を複製し、取引用プラットフォームにアップロードすることは、複製権及び情報ネットワーク伝達権の支配下にあるため、NFTデジタル著作物の作成者(販売者)は、著作物の複製物の所有者であるのみならず、デジタル著作物の著作権者又は許諾者でなければ、他人の著作権を侵害することになると強調しました。
その理由として、裁判所は、ネットワーク送信権とは、有線または無線の手段により著作物を公衆に提供し、公衆が選択した時間および場所で著作物にアクセスできるようにする権利を指すと指摘しました。そのうえで、NFTデジタル著作物はミンティングにより公衆インターネット環境で提供されること、取引の対象は不特定多数の公衆であること、各取引はスマートコントラクトにより自動的に実行され、公衆は選択した時間と場所でNFTデジタル著作物を入手することができることを説明しました。その結果、NFTデジタル作品の取引は、情報ネットワーク通信行動の特性に合致することが判明しました。
この判決には、裁判所がNFTをNFTメディア(これらは別物)と同一視しているように見えるため、議論の余地があると思われますが、この判決は(控訴して取り消されなければ)NFT-著作権分野における今後の判決の指針となる可能性があります。
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まとめ
NFTが著作権を侵害するかしないかについて、一定の結論を出すことは依然として困難です。NFTは、それ自体、元の物理的なアートワークに関する権利を所有者に与えないという事実は変わりませんが、杭州インターネット裁判所が判決で示したように、著作権とIP権全般に対して有害となる可能性は依然としてあります。
NFTの性質と内容に関する誤解は、それにもかかわらず、間違いなく相当数の著作権紛争を生じさせるでしょう。このテーマに関する最初の訴訟はすでに存在しているため、これらの紛争がどのように解決されるか、また、他の裁判所が中国の裁判所と同様の見解を示すかどうかが注目されます。また、杭州インターネット裁判所の下した判決が上訴され、覆されるかどうかも興味深いところである。結局のところ、現時点では、NFTによって著作権が侵害される可能性があるという結論に近づいているのかどうか、判断するのは難しい状況です。