NFTとメタバースに関する知財問題はAIによってより複雑になる

ChatGPTやDALL-E-2などのAIツールが注目を集めていますが、これらのAIツールの活用はNFTとメタバースに関する知財問題をさらに複雑にする要因の1つにもなっています。今回は、AIが作成したコンテンツに対する知財権の権利行使とAIによって作成されたコンテンツに発せうする権利やAIそのものを教育するために使われる著作物の取り扱いについて、知財の問題点をまとめてみました。

AIが生成したコンテンツに対して知的財産権を行使することは可能か?

プログレッシブAIはブランドオーナーにどれほどの脅威をもたらすのでしょうか?メタバースの進展は、ブランドと消費者の注目を集めました。CNIPA、USPTO、EUIPOに登録されたデジタル商品に関する知的財産権の数が最近高い伸びを示していることは、ブランドが今後数ヶ月のうちにメタバースにおける事業を確立する傾向を示しています。また、Nike、Tiffany、Gucciなどのブランドが、新しいメタ・リアリティを取り入れることによって数百万ドルを稼いだことは周知の事実です。より高度なデジタル消費者エンゲージメントに向けて急速に進む中、既存のIPに脅威を与える可能性について考えてみたいと思います。

Web3の技術は、コンテンツ保護と権利者の権利行使全般に関してまだ初期段階にあるため、悪質な行為者に対して有効な手段を持たないシステムであるという主張があります。メタバース以前の時代において、知的財産に関連する法律は、権利者が物理的な商品の完全な所有権を有することを明確にしており、多くのブランドは、メタバースとデジタル商品のマークを登録するなど、デジタル空間における所有権を保護するための措置をとってきました。

その一方で、侵害者の典型的な戦略には、ミラーリングしたソーシャルメディアチャンネルにトラフィックを迂回させて権利者の許可/ライセンスなしにNFTをミント(作成)したり(The Pokémon Company International, Inc v Pokemon Pty Ltd [2022] FCA 1561)、著名なブランドの商標を用いたブロックチェーンのドメイン名をサイバースクワッティングしたりすることが含まれます。これらの侵害に対する訴訟は、ブランドや弁護士から支持を得ており、最近ではMetaBirkins NFT事件でエルメスが勝利を収めました。

しかし、AIによって生成されたコンテンツの脅威はこれまでになく高まっており、現在の知財に関連する法律の理解を覆すものとなっています。

AIによって生成されたコンテンツに発生する権利・利用される著作権物はどう取り扱うべきか?

AIが大量に生成されているデジタルコンテンツの制作を支える「ツール」であることは広く受け入れられています。AIがブロックチェーン上に保存された平均1万個のデジタル資産を生成するNFTコレクションにも、同様の慣行が適用されます。例えば、注目すべきNFTコレクションであるBored Apes Yacht Club(BYAC)はイーサリアムブロックチェーン上に保存されています。Web3テクノロジーは、そのシステム的な効率性が一般的に評価されていますが、これにはユーザー間のシームレスなトランザクションが含まれ、デジタル資産の記録的な一次販売に大きく貢献しています。NFTの生成と新しい所有者への移転の速さは、IP保護に対する真の脅威であり、ブランドのイメージに即座にダメージを与えるものです。

さらに、BYAC NFTコレクションの商標権侵害に関する最近の訴訟(Yuga Labs, Inc. v. Ryder Ripps)は、原告(Yuga Labs)がなぜ著作権侵害ではなく商標権侵害を根拠に訴えたのか、専門家の間で話題になっています。これは、米国の小説家Kristina KashtanovaとAIテキスト画像変換ツールMidjourneyが、一部AIで生成したグラフィックノベル「Zarya Of The Dawn」の著作権登録を取り消すかどうか、米国著作権局が行った議論の核心となるものでもあります。著作権は人間の創作過程によって発生しますが、AIによって生成されたコンテンツは、芸術の創作における人間の要素そのもの、そしてより重要なのは、これらの権利の行使可能性の範囲に疑問を投げかけています。この問題はすでにメタバースにおける商標の無許可使用にも及んでおり、多くのブロックチェーンドメイン名はウェブから最も人気のある単語や名前に基づいて生成されています。アルゴリズムは、IPコンテンツと一般的な単語および/または数字との違いを知りません。

しかし、Getty Images v. Stability AIから、ライセンスなしで画像をスクレイピングするAIに対してどの程度まで強制できるのか、おそらく何らかの回答が得られるでしょう。とはいえ、ブランドオーナーは、こうした機械学習技術に巻き込まれていることに気づかないまま、被害者になってしまうかもしれません。

様々なメタバースプラットフォームやチャネルを通じて何千もの無許可のデジタル資産が日々生み出されるスピードは、新しいWeb3ランドスケープにおいてブランドを保護するために、IPポートフォリオやIPの行使についてどこから手をつければいいのか戦略を立てるのは難しいかもしれません。

参考文献:NFTs & Metaverse: AI’s trouble in paradise

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