Fractional NFT は「次の大きな波」なのか、違法行為なのか?SECの調査開始から見るNFTの分割の大きな可能性とその闇

人気NFTは高額なため一般の投資家やコレクターには手が出せないものになってしまいました。しかし、NFTを100分割にも1万分割にもできる Fractional NFT によって、NFTをより身近なものにして「民主化」を図る動きがあります。このNFTの分割がさらなるNFTブームに拍車を書けるのか?それとも、規制で「違法」になってしまうのか、今まさに大きな転換期を迎えている Fractional NFT について、法律の観点から解説していきたいと思います。

NFT とは?

NFT(non-fungible token)とは、ブロックチェーン技術を活用し、データを代替性のないものとして、販売や取引を可能する「箱」のようなもので、NFTに紐付けられるデータとしては、画像やビデオ、オーディオなどのデジタルファイルと関連付けられることが一般的です。

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今回、Fractional NFT の話をする上で、最も一般的なPFP (Profile picture) NFTを例に取ります。PFP NFTは、保有者のソーシャルメディアのプロフィール写真として表示されるようにデザインされたデジタル・トークンまたはアートワークです。Bored ApesやDoodlesなど、世界で最も人気のあるNFTコレクションの多くはPFPです。

しかし、NFTはPFPだけではなく、今回話すFractional NFTも基本どのようなデータが紐付けされているNFTでも分割化することは技術的には可能と考えてもらっていいと思います。

Fractional NFT とは?

さて、今回紹介するFractional NFTとは、文字通りNFTをFractionalする、つまり「分割」したものを指します。(実際のFractional NFTの仕組みは少し違いますが、)イメージとしては、1つの画像を100分割なり1000分割のパズルのような形にして、それぞれのパズルピースを「所有」できりようにしたものと言うとわかりやすいかなと思います。

どのように Fractional NFT が作られるか?

NFTを分割する際のくわしい技術的な説明はここでは割愛しますが、ERC-721というほぼすべてのNFTが満たしている規格があるのですが、それをスマートコントラクトによって「保管」して、その保管されたNFTに対応する一定数のERC-20という規格を満たす一般的な仮想通貨(ERC-20トークン)を発行することで Fractional NFTが作られます。例えば、1つのNFTが100分割されるのであれば、100枚の仮想通貨が作られ、1枚がNFTの1%を示すようになります。つまり、Fractional NFTは限定された仮想通貨なので、それぞれに代替性があり、PFPのような画像と関連しているNFTの場合であっても、画像の特定の部分を保有するというものではありません。

Fractional NFT の市場は小さい

以下に示すように規制の可能性もあるため、Fractional NFTの市場は一般的なNFTの市場よりもかなり小さいのです。

一般的なNFT市場は、2021年に開花し、投資家は2020年の1億600万ドルからおよそ400億ドル相当の売上がありました。今年は仮想通貨の暴落やNFTの取引の低迷もありますが、NFTは5月時点でおよそ370億ドルの売上を記録していることが、データから明らかになっています。

Fractional NFT market volume

その一方でFractional NFT の市場は、コレクターズアイテムが流行したとき、2021年12月時点では2億ドル台を超える規模に成長しました。しかし、それ以降はNFTの低迷もあり、全体の時価総額は5000万ドル程度に落ち込んでいます。

Fractional NFT のマーケットプレイス

Fractional NFT on sale

そんなまだまだ小さい市場ですが、Fractional NFT を提供しているマーケットプレイスもあります。例えば、fractional.art では、Crypto punk #7171 のNFTがFractional NFTとして売られています。

情報を見ると、CryptoPunk #7171が1万分割されていて、その1万トークンの現在の価格と総数をかけ合わせた「NFTの時価総額」は、46万ドル程度、つまり日本円で6000万円以上となっています。

Fractional NFT marketplace

他にも、高価な物理的なスポーツコレクタブルを買い取り、Fractional NFTとして販売するDibbsというマーケットプレイスもあります。Dibbsは、アマゾンから出資を集めたことで注目されています。

Fractional NFT の利点

今回のメインの話は、このようにNFTを分割した場合の問題点なのですが、その前にFractional NFTにするメリットを簡単に紹介します。

流動性が格段によくなる

NFTの場合、特に、CryptoPunksのようなプレミアがついていて「高額」なNFTの場合、そのNFTを購入できる人が限られているため、ビットコインのような仮想通貨と異なり、取引のボリュームが少なく、流動性がよくありません。そのため売りたいときに買い手がつかないということもよくあります。

しかし、NFTを分割すると、分割されたNFTトークンを買える人が増え、取引が活発になります。取引量が増えてば、それだけ流動性が増すので、いつでも好きなときに取引ができるようになります。

多くの人がNFTを持てるようになる

NFTを分割すると、NFTまるごと買うよりも遥かに安い価格帯でそのNFTの一部を表すトークンが買えるので、今までNFTに手が出せなかった一般投資家もNFT(の一部)を保有することができるようになります。

NFTの値段が高くなる傾向がある

Cryptopunks price

これは先程説明したNFTの流動化に伴う効果が大きいのですが、NFTを分割して取引すると、その時価総資産は1個単位でしか取引できない場合よりも高値になる傾向があります。例えば、先程紹介した分割されたCryptoPunk #7171の時価総額は約46万ドルです。この金額は一般的なCryptoPunksの取引額(Price Floor)の約14万ドルよりもかなり高くなっています。

CryptoPunksのようなコレクションの取引額がわかるサイトがあるのですが、それを見ると、ここ一週間の最低取引金額がドル換算で、12万ドルほどです。最高額は34万ドルを超えますが、平均取引額が16万ドル程度なので、時価総額が高くなればなるほど、レア度が急激に高くなるのがわかります。

私には、CryptoPunk #7171 の適正価格を判断することはできませんが、時価総額が46万ドルというのは、かなり「レアで高い」CryptoPunksになると思われます。しかし、もしCryptoPunk #7171がそのようなレアではないものであれば、その時価総額は、FTを分割することによって、流動性が増し、それによってより多くの人達が取引できるようになったため、価格を押し上げた可能性もあります。

このように、マーケットが活発になることで、その需要から分割しているNFTの価格が分割されていないNFTよりも高い値が付きやすい傾向にあると考えられます。

Fractional NFT の「証券化」問題

このようにNFTの問題を解決し、さらに価値を高める可能性があるFractional NFTですが、今後Fractional NFTが注目され、市場規模が大きくなるためには数多くの問題があります。

その中でも一番大きな問題の1つが、SEC(米国証券取引委員会)による規制強化のリスクです。

今年3月のはじめに、米国証券取引委員会(SEC)がいくつかのNFTのミントが有価証券の募集にあたるかどうかを調査しているとの報道がされました。そして、SECはすでに一部の発行者に対して召喚状(subpoenas)を送付しているとのことです。

ちなみに、アメリカでは証券はsecuritiesと言って、サイバーセキュリティなどで使われるセキュリティと同じ言葉ですが、ファイナンスの世界では、全く異なる「証券」という意味合いで使われます。また、今回のようにNFTのような特定のモノを「有価証券的」なスキームに用いることをsecuritization(証券化)と言います。

もしFractional NFTが有価証券であるというような判断が下された場合、現在のマーケットプレイスのほとんどは必要な情報開示条件を満たしていないので違法となり、場合によっては、証券法違反で罰金が課せられることになるかもしれません。

そうなると、Fractional NFTが(すくなくともアメリカでは)公に取引できなくなるので、市場が急速に収束して、マーケットプレイスは潰れ、すでにFractional NFTを持っている一般人は、取引できずに価値がつかない仮想通貨を持て余すという最悪の状況にもなりかねません。

ここで一回、証券法の問題を整理すると、まず一般的なNFTは、オークションで人気のある物理的な芸術作品の販売に似ており、証券法の問題を引き起こすと見なされる可能性は低いです。これについては、SECのPeirce氏も、NFTの全体的なコンセプトは、”non-fungible”、代替性がないため、一般的には、有価証券である可能性が低いと言っています

関連記事:NFTに関する各国の 規制 状況

しかし、「見返り」や「特典」がついてくるNFTや、今回のテーマである Fractional NFT に関しては話が違うようです。NFTを分割して発行するというスキームは、集団投資として機能すると推測される可能性があると、SECは警告しています。

仕組みの部分でも説明しましたが、Fractional NFTは、NFTを分割することによって、多くの投資家がその一部を所有できるようにしています。

どのような取引が「投資契約」に該当するかどうかを判断するために1946年に下された最高裁判決で示された「Howey Test」というものが適用される場合が多いのですが、そのテストでFractional NFTを評価すると、Fractional NFTが証券とみなされる可能性も十分あります。

「Howey Test」には以下のような4つの条件があります。

  1. 金銭の投資であること、
  2. 共同事業であること、
  3. 合理的な利益が期待されること、そして
  4. 起業家の努力に起因するもの

この4つの条件を満たすと、証券としてみなされる可能性があります。

これらの条件にFractional NFTを当てはめてみましょう:

まず(1)金銭の投資であること、ですが、Fractional NFTでは、分割されたNFTを代替性のある仮想通貨として購入できるので、金銭を用いた投資と解釈することができます。

次に(2)共同事業であること、ですが、投資契約の文脈で言う共同事業(英語ではcommon enterprise)とは、2社以上の企業で共通の目的を追うための方法で、投資家の利益が、雇用される第三者や投資を提供または販売する者の成功に結合され、依存する場合のことを言います。

Fractional NFTの場合、実際にNFTを分割して発行する人や組織がいて、そこが発行するFractional NFTがどれだけ注目を集め、取引を拡大していき、高値を付けるのか、という部分が投資家には重要になってくるので、Fractional NFTが投資契約上の共同事業としてみなされる可能性は十分あります。

3つ目の(3)合理的な利益が期待される、ですが、アート作品としての要素がある単体NFTとは異なり、Fractional NFTを購入する人は、今後のFractional NFTトークンの売買によって利益を期待していると考えられるため、Fractional NFTはこの条件も満たすと考えられます。

最後に、(4)起業家の努力に起因するもの、ですが、これは(2)共同事業であること、でも触れたのですが、特定のFractional NFTの価値が上がるか・下がるかは、そのFractional NFTを発行した事業者やプラットフォーマーの努力に依存するものと考えることができるなら、この最後の条件もFractional NFTは満たす可能性があります。

このように、「Howey Test」の4つの条件をFractional NFTが満たす可能性が高いため、Fractional NFTは証券としてみなされる可能性があります。

SECは近年のNFTブームによる市場の急拡大と、Fractional NFTを始めとするNFTを用いたビジネスの複雑化が進む中、一般投資家がNFTに投資する機会も多くなっていることから、証券である可能性の高いFractional NFTを問題視していて、規制の対象にすべきかをまさに今検討しているところです。

Fractional NFT の知財の問題

今回はSECによる規制の可能性に関して大きく取り上げましたが、Fractional NFTの問題はNFTの証券化だけではありません。他の法的問題としては、知財問題、契約問題、パブリシティ権などが懸念事項として上げられています。

今回はこのすべてについて話すことはしませんが、知財の問題を1つ上げると、今回紹介した分割されたCryptoPunk #7171の画像をFractional NFTを買った人が「保有」しているかという問題です。

1つのNFTを一括で所有していることが前提でNFTの知財に関するライセンスや規約は書かれています。そのためNFTの100分の1、1万分の1を表す仮想通貨を持っているユーザーが、そのNFTの保有者に認められている行為を合法的に行えるのかは明確ではありません。つまり、CryptoPunk #7171が単体のNFTである場合は、その保有者はCryptoPunk #7171の画像について自分のツイッターなどのプロファイル写真に使うことを利用規約で許されていたのですが、分割され1万分の1を表す仮想通貨を持っているからと言って、自分のプロファイル写真にCryptoPunk #7171の画像を使うことができるかはわかっていません。

個人的には、そのような行為をFractional NFTを持っているすべてのユーザーに認めてしまうと、本来は1人しかCryptoPunk #7171の画像を使えないのに対して、最大で1万人もの人が同じ画像を使えることになるので、利用規約によるライセンスはFractional NFT保有者には及ばないと考えています。

まとめ

Fractional NFTは、NFTを分割することによって、手の届かない高価なNFTの保有権の一部をより多くの人が持てる仕組みを提供します。このようにNFTへの敷居を低くすることによってNFTの流動性を高め、NFTをメインストリートに押し上げていく起爆剤として期待される一方、Fractional NFTは代替性のあるトークンであるため、証券化のリスクが懸念されています。

特に今年3月にはSECによるFractional NFTの調査も本格化し、何らかしらの規制のメスが入るかもしれません。そうなると、証券法違反とされる既存の取引所の閉鎖や多額の罰金や、Fractional NFTの事実上の取引停止の可能性があるので、現時点でFractional NFTに手を出すのは非常にリスクが高い行為になっています。

NFTが今後より多くの人になじみ深いものになっていくには、ある一定の規制やルールづくりが必要になってきます。その必要性は認めますが、規制とどう付き合っていくかがFractional NFTに限らず、NFT関係のプロジェクトを推し進めるにおいて重要な点の1つになります。その中で、SECを含めたNFTに関する規制当局の動きは注意深く見守っていきたいものです。

メタバース弁護士 野口剛史

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