更新 10/08/2022: 対談動画をアップしました。
通常NFT購入者には限定されたライセンスしか与えられませんが、最近はBored Apeを皮切りに購入したNFTの商用利用を認めるプロジェクトも出てきました。しかし、せっかく大金を払い購入したNFTをビジネスに活用しても、そのNFTが盗まれてしまったらNFTに付属した 権利 はどうなるのでしょうか?今回この問題について実際に起きた盗難事件を参考に考察してみましたが、NFT関連における法整備の遅さを改めて認識するものとなりました。
今回の考察を終えてNFT関連の法整備で特に気になったのが、1)Bored Ape NFTを法律上どう取り扱うのか、2)改ざんできない取引履歴が公開されているNFTを盗難された事実を知らないで買うことができるのか?という問題です。この2点に関しては、事実整理をした後の法的行為の部分で詳しく解説していきたいと思います。
まずは今回参考にした俳優Seth Greenから盗まれたNFTに関する事実背景を説明します。
何が起こったのか
詐欺にかかりNFTが盗まれる
2022年5月にGreen氏は、NFTプロジェクトのクローンサイトにアクセスしたことで詐欺に引っかかってしまい、自慢のBored Ape #8398とその他NFTの合計4体を失ってしまいました。
Well frens it happened to me. Got phished and had 4NFT stolen. @BoredApeYC @opensea @doodles @yugalabs please don’t buy or trade these while I work to resolve:@DarkWing84 looks like you bought my stolen ape- hit me up so we can fix it pic.twitter.com/VL1OVnd44m
— Seth Green (@SethGreen) May 17, 2022
このようなNFTを騙し取るような詐欺は頻繁に起こっており、今回Green氏が被害にあったこと自体は残念ながら目新しいものではありません。しかし、今回の盗難でユニークだった点は、盗まれたNFTの中にGreen氏が商用利用をしていたNFTが含まれていたというところでした。
関連記事:総額2540万ドル以上におよぶ「盗難」されたトップNFTプロジェクトと盗難対処の限界
NFTを用いたテレビ番組が作成されていた
実はGeen氏は、フィッシング詐欺に遭って奪われてしまったNFTを活用して、新しいアニメシリーズの企画をおこなっていました。この新番組は、White Horse Tavernというタイトルがつけられ、Green氏の膨大なNFTコレクションにあるキャラクターを基に制作されていました。
.@SethGreen new trailer for his new show, keep your eyes peeled👀@BoredApeYC @GutterCatGang @veefriends pic.twitter.com/ZzYN87HYWA
— FFV (@FFVV1211) May 21, 2022
すでにプロモーションビデオが作成されていて、プロジェクトは順調に進んでいたようでしたが、今回のNFT盗難で暗礁に乗り上げます。
というのも、盗まれたNFTの1つであるBored Apeを発行しているBored Ape Yacht Club(BYAC)は、Bored Ape NFTの購入者に、商業的な開発・利用を含む通常よりもより広い権利をライセンスしています。このライセンスを利用しGreen氏は、Fred Simianと名付けられた彼のBored Ape #8398を主人公にしたテレビ番組を作成していたのです。
しかし、肝心のBored Ape #8398が盗難されてしまい、BYACの規約上、画像を利用する権利はNFTに従うことになっているので、放映に必要な権利周りにおいて問題が発生してしまいました。
Green氏は盗まれたNFTを再度購入済み
盗難にあったBored Ape #8398は、その後すぐに転売され、「DarkWing84」として知られているNFTコレクターが購入しました。この購入者は、盗難されたNFTだったとは知らないで買った、いわゆる「善意」(good faith)の購入者だったと主張しています。
当初「DarkWing84」はGreen氏への返却の意思を見せていませんでしたが、話し合いの上、Green氏が165 Ether(当時の価格で29万5000ドル以上)を支払って買い取ったとのことです。
この記事を書いている2022年7月現在でのブロックチェーン上の情報では上記のウォレットアドレスがBored Ape #8398の所有者であり、OpenSeaの情報から、このアドレスの保有者は、Fred_Simian となっています。(TV番組のキャラクターの名前なので、Seth Green氏が保有するものだと思われます。)
NFTが盗難された場合の 権利 の取り扱い
今回のNFT盗難事件ではSeth Green氏が盗難されたNFT(少なくともBored Ape #8398については)を取り戻せた(買い戻した)わけですが、すべてのケースでこのような結果になることはまずないでしょう。また、この記事を書いている2022年7月の時点で、計画されていたWhite Horse Tavernの放映は行われていません。どのような問題があって滞っているのかはわかりませんが、このように商用利用していたNFTが盗まれてしまうと、プロジェクトに支障を来す場合があります。さらに今後もNFTの盗難事件は増えてくることが予想されています。
そこで今回は、商用利用をしていたNFTが盗難された場合に権利周りがどう取り扱われるべきかを今回の事実に照らし合わせて考察してみました。
NFTをどう取り扱うのか?
まず盗難による権利の取り扱いを考える前に、NFTがどのような性格のものかを考える必要があります。
NFTは「デジタル所有権」だと言われることがあります。つまり、今回のBored Ape #8398のようなJPEG画像であってもブロックチェーン上の履歴から所有者が特定できるので、物理的な世界における芸術作品を所有するのと同じように、NFTを用いることでデジタルなものにも所有権を示せるということです。この所有権(property right)は財産権(property law)に基づいた権利なので、NFTをこのように取り扱う場合、NFTを個人所有物(personal property)として捉えていると言うことができるでしょう。
関連記事:NFT の本質は?技術的面から見るNFTのホントの姿
しかし、デジタルなものに関する所有権は一概に認められているものではなく、これらの製品の多くはエンドユーザーライセンス契約の対象となっています。具体的には、電子本のKindleや皆さんがお使いのソフトウェアなどをイメージしてもらえるといいと思います。これらの製品に関してはユーザーは「所有権」をもっておらず、制限された方法で利用する譲渡不可能なライセンスが与えられています。実態はライセンスであっても、利用する限りでは所有しているものを使うこととほぼ変わらないため、デジタルアイテムやソフトウェアの購入者はあたかも自分が購入したデジタル製品の「所有権」を持っているかのように思ってしまうことがあります。このデジタルアイテムに関する購入者が感じる見かけの「所有権」と契約で示されている一部権利の限定的なライセンスという法律上の解釈にはギャップがあります。このギャップに関しては今回はこれ以上詳しくは菜々しませんが、気になる方はこの記事を参照してください。
この概念をNFTに用いても法的な解釈が変わるというような判例や法律は現在のところありません。つまり、ソフトウェアやデジタルコンテンツの取り扱いを参考にすると、NFTは関連する画像などのアセットに係る著作権を含む知的財産等の「権利」の一部のライセンス契約を表すもの、つまり、「トークン化されたライセンス契約」として捉えることもできそうです。このNFTを契約と考えるアプローチについての詳細は、この記事を参照してください。
今回取り上げたBored Apeの規約を見ると、購入者はNFTを「所有」しているという表現になっています。そもそも所有権というのは、財産権(property law)に基づいた権利なので、厳密に言うと契約によって与えられる権利ではなく、取引において自動的に発生するものというのが私の理解です。そのためこの規約がBored Ape NFTの所有権を認めるものなのかはわかりませんが、このような内容が規約で示されているということは、NFTの発行元である Yuga LabsはBored Apeのコレクションに関しては、(具体的にそれがどのような権利かはさておき)購入者に「所有権」を認めているということなのでしょう。
しかしその直後に、個人利用と商用利用に関するライセンスの条件が示されています。
そのため、今回の考察のために Bored Ape NFTを1つのカテゴリーに分類するのは難しく、便宜上、1)NFTをトークン化したライセンス契約と考えたケースと、2)NFTを個人所有物として考えたケースの2つに分けて、考察を進めていきます。
盗難時の 権利 周りの取り扱い
NFTの取り扱いに関する整理と仮定が済んだところで、次に今回のGreen氏のように商用利用中にNFTが盗難されてしまった場合を考えてみましょう。
1)NFTをライセンス契約と考えた場合、ライセンスは消滅する?
まず所有権がない状態、つまりNFTがただ単にライセンス契約をトークン化したものと考えてみましょう。
この仮定では規約がすべてになります。
そこで改めて規約を見てみると、NFTを購入したときに紐付けされているBored Apeを「所有」すると書かれています。
この「所有」には「購入」(Purchase)が条件になっているので、盗難のような売り手と買い手が同意していない取引で手に入れたNFTに関しては、この規約上、「所有」が盗んだ相手に移ったことにはならないと考えることができます。しかし、そう簡単でもなさそうです。
次の文に、NFTの「所有権」はスマートコントラクトとイーサリアムネットワークによって完全に仲介されると書かれています。つまり、ブロックチェーン上に示されたウォレットアドレスの保有者が特定のNFTを「所有」していると解釈できます。
そうなると盗まれた直後の時点で考察すると、ブロックチェーン上の履歴からGreen氏はすでにNFTを「所有」していないことになり、盗んだ側がNFTを「所有」しているということになります。しかし、上で説明したように盗んだ側は「NFTを購入」していないので、この解釈には矛盾が生じます。
このようにNFTをライセンス契約と捉えて規約のみを考えた場合でも、NFTの「所有者」の特定が難しく、それに伴う商用利用のライセンスがどう扱われるかは明確ではありません。規約が盗難を想定していないというのもあるのですが、盗難の事例を当てはめたときに、規約自体が矛盾した結果を示しているため、法的に商用利用のライセンスがどこに行くのかが不透明です。
しかし、NFTがライセンス契約であれば、NFTの発行元はライセンス元(ライセンサー)なので、個別の契約に関して規約違反を理由に契約を破棄することも可能かと思われます。例えば、NFTを盗まれてしまった元NFT保有者が、その事実をライセンサーであるNFTの発行元に通報した場合、ライセンサーは独自の判断でその特定のNFTに関するライセンスを取り消すことができる可能性があります。これはライセンスという形式ではライセンス元が比較的自由に権利の取り扱いについてコントロールすることができるためです。しかし、このようなライセンスの停止や契約の破棄に関する取り決めは事前に契約書に明記されているのが通常なので、そのような記載がない契約において、ライセンス元が一方的に行動することは難しいかもしれません。
しかし、もしライセンス元の一存でライセンス契約が破棄できるのであれば、NFTを盗まれてしまった側が商用利用している事業に関して、盗んだ側から権利行使される(そのような権利があるとしたら)というリスクを避けることができ、盗んだ相手が合法的に盗んだNFTの商標利用をすることもできなくなります。ただ、このような対応がなされても、(もともとあったライセンス契約がなくなっただけなので)NFTを盗まれてしまった側に商用利用のライセンスが戻ってくるわけではありません。そのため、今後の商用利用の継続に支障をきたす可能性もあります。
実際に今回のGreen氏の問題について、NFTの発行元であるYuga Labsは特に発言しておらず、具体的なアクションも取っていないので、今回考察したような形で盗難されたNFTに関するライセンスの剥奪ができるかは不透明です。
2)NFTを個人所有物と考えた場合、盗んだ側に権利は移らない?
続いて、NFTを個人所有物として取り扱い、財産権上の所有権という概念が含まれている場合を仮定して考察します。
ここでは古典的な財産権における盗難のケースを考えます。
まずアメリカには、不正な方法で財産を手に入れた者がそこから利益を得ることを防ぐという考え方があり、「クリーンハンド」ルール(clean hand doctrine)といいます(別名:dirty hands doctrine、Unclean Hands Doctrine)。
このルールを今回の盗難に用いると、盗んだ相手はNFTから利益を得ることができないということになるので、NFTの商用利用を含む権利は盗んだ側に移らないと考えることができます。そうなると、上記「1)NFTをライセンス契約と考えた場合、ライセンスは消滅する?」と似たような結果になります。また、この「クリーンハンド」ルールは、不正な方法で財産を手に入れた人が得をすることを防ぐことが主な目的なので、このルールが適用されたからといって、元のNFT所有者に権利が残るというわけでもありません。
またNFTを個人所有物として取り扱う場合でも、規約との関わりも考えないといけません。今回のBored Apeの場合は、NFTを所持していない時点でGreen氏が商用利用のライセンスをNFTを失ってからも持ち続けていると主張するのは難しそうです。
このようにNFTに所有権があると考える場合であっても、商用利用のライセンスがどのように取り扱われるかははっきりしない部分があります。
盗難されたNFTが転売された時の権利周りの取り扱い
次に、盗難されたNFTが盗んだ相手から別の人に渡った場合について考えてみましょう。
1)NFTがライセンス契約しか含まないものだとした場合、ライセンスはすでに消滅している?
NFTがライセンス契約しか含んでいないと考えた場合、最終的にはライセンス元であるNFTを発行した組織がライセンス契約の有効性に関して言及できると考えます。(上記「1)NFTをライセンス契約と考えた場合、ライセンスは消滅する?」を参照。)
そのためライセンスがすでに失効しているのであれば、盗難されたNFTを買った人は商用利用のライセンスを受けられないということになります。これに関しては、購入した人が買ったNFTが盗難されたものだという事実を知っているか否かは影響しないと考えます。
さらに言うと、このNFTに関しては個人利用(Personal Use)に関するライセンスも失効している可能性があるので、最悪のケースだと購入者はNFTをどこにも合法的に表示したり複製したり、利用することができなくなります。そうなると、盗まれたNFTを購入した人はまったく利用価値のないNFTを買わされたという事態に陥りかねません。
しかし、ライセンスは公式ページの規約に表示されていることがほとんどで、発行元が個別のNFTに関するライセンスを失効したとしても、その事実はブロックチェーン上では確認できず、発行元が公の場で公示するかも不明なため、このようなNFTの取り扱いは盗難されたNFTの購入者にとって不平等だと思うところもあります。
2)NFTを個人所有物と考えた場合、転売のときの購入者の理解が鍵になる
次に、NFTを個人所有物として取り扱い、財産権上の所有権という概念が含まれている場合を仮定して転売があったときのことを考察します。
この場合、盗難されたNFTの転売時に買い手が盗難品という事実を知っていたか否かで異なります。
盗難品と知っていた、または、知っていると同等である場合
上記で、「クリーンハンド」ルールを説明しましたが、このルールは盗まれたことを知っていて購入した人にも適用されます。つまり、買う瞬間までに買い手が盗難品という事実を知っていたら、「クリーンハンド」ルールが適用され、盗んだ側と同等の権利しか持てないと理解できます。
今回のケースでは、盗難にあったBored Ape #8398はその後すぐに転売され「DarkWing84」という人が購入しています。この購入者は、盗難されたNFTだったとは知らないで買った、いわゆる「善意」(Good faith)の購入者だと主張しているので、その事実が正しければ、この「クリーンハンド」ルールは適用されません。
しかし、ブロックチェーン上の履歴を見ると、Green氏のアドレスから盗んだ相手のアドレスに価値0で移されていることがわかります。
購入履歴がある場合、通常はこのように取引時の価値が表示されます。
「DarkWing84」が買う前にブロックチェーン上の取引履歴を確認したのかはわかりません。しかし、もしブロックチェーン上の取引履歴の情報から盗難品であることがあからさまであった場合、それを意図的に見ないで購入したということであれば、盗難品と知っていて買ったことと同等であると言えなくはありません。そうなると、「クリーンハンド」ルールが「DarkWing84」にも、またその後の購入者にも適用される可能性があります。
盗難品と知っていた、または、知っていると同等である場合
次に、盗難されたNFTの転売時に買い手が盗難品という事実を知らなかった、「善意」(Good faith)の購入者であることを仮定して話を進めます。改ざんできない取引履歴が公開されているNFTを盗難された事実を知らない状態で買うことができるのかについては、上記の「盗難品と知っていた、または、知っていると同等である場合」で考察しています。
買い手が善意の購入者(Bona Fide Purchaser)と認められた場合、盗難品であることを知らずに購入したため法的に保護されるという考え方があります。このような善意の購入者(Bona Fide Purchaser)は、通常の購入で得られる権利を得られるので、商用ライセンス等の権利も買い手が持っていると主張することができると考えられます。
「DarkWing84」が善意の購入者だったとすると、Bored Ape #8398に関する権利は「DarkWing84」にあるため、Green氏が作った番組White Horse Tavernを止めるために権利行使すること(そのような権利があるとしたら)や、独自の競合するNFTの商標利用をすることもできた可能性があります。
この善意の購入者かどうかは、「DarkWing84」の購入当時の知識が鍵になるので、盗難の事実の知識に関する有無を後になって客観的に証明することは難しく、今後のNFTの盗難における対処の課題の1つになりそうです。
また、規約を参照すると、「DarkWing84」は盗難品を買ったものの、NFTの購入をしているので、購入したNFTに関する「所有権」(と規約で認められている権利)があるという見方もできます。
盗難品を買い戻したときの権利の取り扱い
最後に、Green氏はBored Ape #8398を「DarkWing84」から買い戻しているので、買い戻し後の権利の取り扱いを考えたいと思います。
1)NFTがライセンス契約しか含まないものだとした場合、ライセンスは復活する?
繰り返しになりますが、NFTがライセンス契約しか含んでいないと考えた場合、最終的にはライセンス元であるNFTを発行した組織がライセンス契約の有効性に関して言及できると考えます。
もし仮にすでにライセンス元の意向で商用ライセンス等の権利が失効していたとしても、NFTを取り戻したことをライセンス元に報告し、ライセンス元が許可すれば、また再度ライセンスを受けることはできると思います。
NFTによってトークン化されたライセンスが、正しいライセンス先(ライセンシー)に戻ってきたということなので、ライセンス元(ライセンサー)も通常のライセンスを与えることに抵抗はないかと思われます。
しかし、NFTを取り戻すのにかかった費用等は自己負担という形になるでしょう。
2)NFTを個人所有物と考えた場合、買い戻しで元通り?
次に、NFTを個人所有物として取り扱い、財産権上の所有権という概念が含まれている場合を仮定して、盗難品を買い戻したケースを考えます。
買い戻した相手(売り手)が盗難品の善意の購入者であるか否かに関わらず、盗難にあったNFTを買い戻したことによって、権利周りがすべて買い手に集まったことになるので、商用利用ライセンスを含めた必要な権利が元通りになったと考えることができます。
今回の場合、Green氏は「DarkWing84」からBored Ape #8398を買い戻したので、規約によりもともとBored Ape #8398に与えられていた権利をすべてGreen氏が保有することになったと考えることができるでしょう。
しかし、取り戻しにかかった費用は自己負担ということになるかもしれません。盗んだ相手に損害賠償の訴訟を起こせるかもしれませんが、暗号資産が係る取引上の性格から、本人の特定や訴訟管轄地域の特定などが難しく、法律上そのような訴訟が可能であっても、現実的にはそのような訴訟を起こすのは難しそうです。
まとめ
今回はNFTの盗難にあった場合、そのNFTに付属する権利はどうなるのかを法律の観点から考察してみました。しかし、NFTをトークン化されたライセンス契約と考えるのか、それとも、個人所有物として考えるのかが明確ではなく、そのため考察も複雑なものになってしまいました。
さらに、改ざんできない取引履歴が公開されているNFTを盗難された事実を知らないで買うことができるのかについては明確な司法の見解が示されていないため、盗難されたNFTを購入した第三者の権利もはっきりしない結果になってしまいました。
NFTという新しい技術を用いたものだからといって、既存の法律の概念に当てはまらないわけではありません。しかし、どのような法律がどのように適用されるかは、まだはっきりとしていません。
今回の考察ではかなり簡略化して話しましたが、実際にNFT盗難事件が民事で争われる場合、更に複雑な要素があります。関連する契約法や財産権法は州法の管轄なので、州によってルールが異なり、また、解釈も異なる場合があります。そのため、実際の訴訟でどのような判決が下されるかは不透明で、同じような事件であっても、争われる裁判所や州によって結果が異なる可能性も十分あります。
このようにNFT関連における法整備はまだまだですが、今後の判例や法整備を注目し、情報を常にアップデートしていくことがNFTビジネスで成功する秘訣の1つだと思います。
対談動画
メタバース弁護士 野口剛史