メタバース は可能性に溢れていて楽しい空間ですが、より多くのユーザーがメタバースに入ってくるにつれて、いろいろと「問題」が起こってきます。今回は、今後 メタバース 内で必ず起こる(すでに起こっている)5つの問題を紹介したいと思います。最後には「おまけ」で中長期的な問題も予想しているので、参考にしてみてください。
アプローチの仕方
メタバースは、既存のゲーム、NFT、仮想通貨のコンセプトを主に取り入れたものなので、それらの市場ですでに起こっている問題と似たような事例が出てくると考えました。また、最初は初歩的でシンプルな問題が表面化し、その後メタバースのエコシステムの発展に伴い、問題も複雑化することが予測されます。今回はあえてシンプルなものだけを紹介しますが、今後はここで示した問題であってもさらに複雑化したり、他の問題や要素が加わるようになっていくかもしれません。
1.フィッシング詐欺 (phishing scam)
特定のメタバースを運営している公式からの連絡と見せかけてユーザーを騙す行為。個人情報を教えるよう促す古典的なやり方から、自分が持っているウォレットに悪質なスマートコントラクトを承認するように誘導させるやり方など、仮想通貨・NFT業界に特化した手法も出てきています。

大規模な例を上げると、OpenSeaを装ったphishing scamで大量のNFTが奪われてしまったという事件。世界最大のNFTマーケットプレイスであるOpenSeaがスマートコントラクトをアップグレードを行いました。このアップグレードは大掛かりなもので、期限以内に適切な手続きを取らないユーザーは、対応しない古いリスティングを失うリスクがあるというものでした。
発表されてから1週間という短い期間とスマートコントラクトをアップグレードしない場合のリスクが高かったため、正規の運営元からの連絡か確認せずに、アップグレードを実行した人が多数いました。その中には運営元からの連絡と見せかけた偽物のメールが混ざっており、そのメールに従って手続きを行った人は、知らない間に自分で悪質なスマートコントラクトを承認してしまっていて、フィッシング詐欺を行ったところに持っていたNFTを奪われるという被害が発生しました。
これは一例に過ぎずNFTマーケットプレイスで起こったことですが、似たようなことはメタバースでも起こることが予想されます。例えば、特定のメタバースを運営している公式からの連絡と見せかけ、個人情報を教えるように強要されたり、OpenSeaの事件のようによくわからないスマートコントラクトを承認するように誘導されるかもしれません。
そのような被害が大規模になってしまうと、運営元の評判がガタ落ちになったり、(義務はないのですが、)被害にあったユーザーの補填をしないといけなかったりと、ユーザーにとっても、運営元にとっても大事になりかねません。
また、フィッシング詐欺はOpenSea事件のような大掛かりなものだけでなく、個人をターゲットにした小規模なものも多くあります。よくあるのが、公式のサポートを装ってアプローチしたり、公式サポートを装ったSNSを運用しているケースです。これらも同様に、「公式」と見せかけて、センシティブな情報を教えるよう仕向けてきたり、持っているNFTや仮想通貨を騙し取るような手口が多いです。
メタバースでも似たような公式サポートを装った悪徳企業が出てくることが予想されます。
2.メタバース コミュニティ管理者のソーシャルアカウントハッキング
1.のフィッシング詐欺にも関連するところがあるのですが、このハッキングは、既存のメタバースを提供している組織が公式チャンネルとして運営しているSNSに対して行われるものです。1.のフィッシング詐欺とは異なり、「公式」のアカウントが乗っ取られ、そこから発信された情報を信じてしまったユーザーが被害に遭うというものです。
このタイプの問題でニュースになったのが、CityDAO事件。これは「イーサリアムのブロックチェーン上に都市を建設する」ことを目的にワイオミング州の40エーカーの土地を購入したグループ「CityDAO」のDiscordサーバがハッキングされ、その結果、資金が盗まれてしまったというもの。Discordはゲーム、NFT、仮想通貨のプロジェクトのコミュニケーションプラットフォームとして使われることが多いです。便利なのですが、詐欺の温床になっていると懸念している人たちもいます。今回のことの詳細は、関連記事や被害にあったアドミンのツイッターを見てもらえればわかるのですが、巧みなソーシャルエンジニアリングとDiscordの弱体性を突いて、アドミンのアカウントを乗っ取り、Air dropと見せかけた悪質なアナウンスメントに引っかかって、騙された人たちのEthが盗まれました。
特定のメタバースを運営している組織も、メタバースのサービスとは別にDiscordコミュニティを持つことが当たり前になってきています。現にメタバースサービスを提供してる有名所のSandboxやDecentralandもDiscordを含めた多くのSNSを公式で持っています。
そのため、同じようなハッキングの被害に遭うことも十分想定でき、「公式」によるプロモーションと勘違いしたユーザーが被害を被るスキームは今後メタバースでも増えてくることが予想されます。
3.NFTアイテムによる著作権侵害
詐欺的な行為はこれくらいにして、次に起こる問題として、知的財産関連の問題を考えてみましょう。
今後メタバース内で深刻な問題になりそうなのが、メタバース内で使われるNFTアイテムが原因で発生する著作権侵害問題です。
NFTはブロックチェーン技術を活用することでデジタルアイテムであっても希少化させることを可能にしました。これ自体はものすごい革新なのですが、特定のNFTを発行(ミント)する際に、その発行者が適切な著作権を所有している著作権者かを網羅的にチェックする仕組みがないということです。
本人確認を厳格にしているプラットフォームもありますが、残念ながら完璧ではなく、最大のNFTマーケットであるOpenSeaの無料NFTミントツールで作成されたNFTのほぼすべてが偽物、盗作、スパムであるという衝撃的なレポートがありました。
このNFTをミント(発行)するときの「本人確認」は、NFTの仕組みではどうにもならない問題なので、発行を助けるプラットフォームのポリシーに大きく影響します。
メタバースにこの問題を当てはめると、2つ可能性が考えられます。まずは、特定のメタバース内で使えるNFTはすべて運営元がミント(発行)し、それ以外のNFTは使用不可である場合。このようなクローズドシステムの仕組みを取る場合は、NFTの発行元が1つしかないので、偽物、盗作、スパムの被害が極端に下がります。
しかし、このような場合であっても、運営元が発行するNFTアイテムが他社の著作権を侵害している可能性があります。もし著作権侵害で運営元が著作権者から訴えられたら、運営元の裁量で、侵害していると思われるNFTのデザインが変更になったり、NFTが取り消されるというようなケースも(NFTの発行時にどのようなスマートコントラクトの仕組みになっているか次第ですが)考えられます。
2つ目が、メタバース内に比較的多くの第三者によるNFTアイテムを持ち込むことができる場合。この場合、持ち込まれたNFTアイテムが誰かの著作権を侵害している可能性があります。この場合、著作権侵害の元の責任はそのNFTアイテムを使用しているユーザーなのですが、その侵害品を侵害する形で使用することを許しているメタバースのサービス提供社にも著作権侵害の責任が及ぶ可能性もあります。この場合、運営元は、Digital Millennium Copyright Act (DMCA) という著作権の法律上サービス提供社に求められている著作権侵害通知の手段を明確に提供し、DMCA通知があった際に、適切な手続きを迅速に行うことが求められます。
悪意があって意図的に模倣品を作成しているのであれば、適切な形での規制は大切ですが、アーティストが芸術表現の一環として特定の著作物を用いた二次創作を行うこともあります。そのような使用については、Fair useの考えの元、著作権侵害にはならない可能性もあります。
また、このようなアーティストが著作権侵害を悩まずに活動できるために、二次創作に必要なライセンスを比較的簡単にとれるシステムを実装したり、問題が起こる前に事前に著作権問題を解決するエージェント・ブローカー的な役割に対するニーズが高まってくるかもしれません。
4.NFTアイテムや メタバース 内のサービスによる商標権侵害
アート系の場合、著作権が発生する作品も多い(注:すべての「アート」が著作権で保護されるわけではない点に注意)のですが、NFTアイテムがすべて著作権で保護されるわけではありません。そのため「コピー」されても、著作権侵害で訴えられないようなケースもあります。
この「著作権」ではなく「商標」を使った権利行使をうまく活用した例が、Nikeの訴訟です。
Nikeはスニーカー転売業者「StockX」が無断で発行していたNikeのシューズのNFTはNikeの商標侵害にあたるとしてStockXを提訴しました。ここで注目する点は、Nikeは著作権侵害に関しては何も言っていないことです。というのも、対象物が「シューズ」という機能的なもののため、著作権の対象にならない可能性が高いと考えたのか、Nikeのロゴなどを含む商標侵害でStockXを訴えました。
またNikeを含め大手ブランド各社は、積極的にメタバース・NFT関連の商標出願を進めています。商標の対象は、ブランドのマークを含んたNFTアイテムだけでなく、仮想空間の店、メタバース内におけるブランドによるサービスに関しても商標出願をしています。
そのため、今後大手ブランドによるメタバース内への出店が予想される中、似たようなサービスを行っているお店で大手ブランドの商標を侵害するような行為を行っていると、商標訴訟を起こされる可能性があります。
また、商標自体は、特定のメタバースサービスに特化したものではないので、たとえ、ブランド自体が出店していないメタバースサービス内であっても、彼らの商標を侵害する形での運営がされているのであれば、権利行使され、訴訟沙汰になる可能性も十分考えられます。
関連記事:NFT事業者必見: エルメス の商標訴訟をフォローすべき3つの理由
このようなメタバースの流れから、今後は多くのブランドがメタバースにおける事業展開を見越して新たな商標出願をすることが予測されます。
5.メタバース 内のセクハラ・いじめ
メタバースに「住む」人が多くなるにつて、メタバース内でコミュニティが形成されるようになります。わざわざ遠くの国に行かなくても実際に会っているような感覚で世界中の人々とコミュニケーションを取れるようになることはすばらしいことです。
しかし、コミュニケーションができるということはいいことだけではありません。その反動で、メタバース内でも現実世界で起こっているようなセクハラを始めとする様々なハラスメント、差別行為、そして、いじめなど、現代社会が抱える社会問題もメタバース内で起こるようになるでしょう。
これらの社会的問題は、先程まで紹介した詐欺や知財侵害とは異なる性質を持っていて、具体的な対策を講じるのが難しく、また取り締まりや規制も難しい、とても厄介な問題です。
また、現実社会とは違うメタバース特有の「セクハラ」や「いじめ」の形も出てくると思うので、この問題に関しては必ず起こることはわかっても、どのように事前に対策を取ったらいいのかわからないという点も他の問題点とは異なるポイントでしょう。
メタバース 関連で起こりうるその他いろいろな問題
ここにあげた5つの問題は代表的なもので、他にもメタバース内で問題になりそうなことはいくらでもあります。
NFTや仮想通貨ですでに起こっているような、有名人・インフルエンサーによる「ここだけの儲かる」話で損をする、いわゆる 「pump and dump」の道具として使われるようなケースもメタバース内で十分起こる可能性があります。
あとは、特定のメタバース内の活動が活発に見えるように、運営元や関連する人たちが「ニセユーザー」を作ったり、裏で操作するということもありえるでしょう。そうすることで、関連するNFTの価格やメタバース内で使われている仮想通貨の価値を人工的に上げるようなことをやってくるかもしれません。
続いて、メタバース開発元の「やるやる詐欺」。これは開発元が明らかに無理なロードマップを掲げて、早期ユーザーに期待をもたせて、メタバースに投機的に投資させるようなスキームです。
メタバース の進化と共に問題は複雑化する
このように比較的短期間で起こるような問題は、すでにゲーム・NFT・仮想通貨で起こっているような問題がメタバースでも起こるようなものだと思います。しかし、メタバースが私達の生活に欠かせないものになってくるのであれば、問題は更に複雑化し、規制や取り締まりとのイタチゴッコになる可能性もあります。
例えば、中長期的に起こりそうな問題として、Crypto domainの先取り問題が考えられると思います。
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仮想通貨やNFTの取引に使われウォレットのアドレスは数字の羅列ですが、それを簡略化できるCrypto domainというものがあります。今後、企業がメタバースに進出するにつれ、自社のウォレットにCrypto domainを使用する企業も現れるでしょう。しかし、Crypto domainは、他のウェブのドメインと同じように早いもの勝ちなので、企業がCrypto domainを取ろうと思ったら、すでに誰かに買われていたというような問題も発生するでしょう。
また、権利付帯のNFTが増えれば、権利が付随しているように見えて、実は権利だけ別途で売ってしまったあとのNFTを掴まされるかもしれません。
そして、NFTが高額になるにつれて、NFTを「借りる」というようなことになってくれば、NFTレンタル詐欺なんかも出てくるでしょう。
あと、いま次世代のガバナンスとして注目されているDAOですが、機能しないDAOも今後たくさん出てくることも考えられ、メタバース内で既存のDAOに反乱を起こす反DAO組織がクーデター的なことを起こすかもしれませんし、それがきっかけでメタバース内で「戦争」が起こるかもしれません。
まだまだ未知数だらけのメタバースですが、安全に楽しむためにも、まずは自分で調べるスキルをつけて、誰にも「騙されず」、他社の知財を敬い、他人と共存できるように、日々学んでいくという姿勢が大切なのかもしれません。
メタバース弁護士 野口剛史