メタバース 法律リスクの道しるべ:全体像から具体的な課題まで完全解説

去年の3月に産業省が公表した「令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)」は、 メタバース ないにおける法律リスクが具体的に示されていながら、法律の専門知識がなくてもその内容が理解できる メタバース でビジネスを始めたい人にピッタリな内容です。このレポートの法的な問題に注目した部分を参考にして、メタバース系のビジネスを行う事業者が直面するであろう法的な問題の全体像から具体的な課題まで皆さんと見ていきたいと思います。

メタバース とは

メタバースの定義には(Web3というようなバズワードと同じように)決まったものがありませ。しかし、一般的には、オンライン上に設けられた仮想空間(「バーチャル空間」ともいいます)を指し、ユーザーがそのメタバース上での自分であるアバターを通して他のユーザー同とコミュニケーションできる場所です。具体的なコミュニケーションの形はさまざまで、一緒に遊べたり、会議したり、イベントに参加できるというのはもちろん、場合によっては自分で(または一般ユーザーが)作成したアイテムやスキンを身につけることができたり、自分がマップ(空間)を作成して公開できるプラットフォームもあります。

このような定義で言うなら、メタバースというものは別に新しいものではありません。例えば、「オンラインゲーム」の一部はだいぶ前からこのメタバースの特徴をもったものもあり、一般に多く普及しているものもあります。

具体的に言うと、この広いメタバースの定義では、2000年からあったセカンドライフMinecraftFortniteRoblox などが、メタバースに該当すると認識されることが多いようです。

しかし、このような定義であれば、Final Fantasy XV のような多人数参加型オンラインゲーム(massively multiplayer online、略してMMOゲーム)、つまり、同じサーバーに数百人、数千人という多数のプレイヤーが参加するオンラインビデオゲームもこのメタバースに含まれると理解することもでき、さらには、オンラインの共有機能を使ったあつまれ どうぶつの森のようなほのぼのとしたタイトルでも、このメタバースの条件を満たすようと考えることもできます。

メタバース の多面化とそこから起こりうる法律の問題

しかし、インターネットのさらなる高速化やVRヘッドセットなどの機器の普及なども相まって、ゲーム以外でも、メタバースに該当するようなものも増えてきています。

例えば、元FacebookのMeta社が手掛けるソーシャルプラットフォームのHorizon worldや、Microsoftの会議に特化したMeshという、大手企業が手掛けるものもあれば、SandboxDecentralandのような仮想通貨やNFTも取り込んだサービスもあり、実に様々です。

日本でも、Clusterというプラットフォームが有名だと思います。

このようにスタートアップも大企業も注目しているメタバースですが、まだビジネスで活用する場合の課題は多く、専門知識がないとわからないことも多いため、敷居が高いと思われる人も多いかもしれません。

しかし、ちょうど去年の3月に産業省が公表した「令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)」にまとまった情報が載っていたので、そのレポートの法的な問題に注目した部分をベースに、メタバース系のビジネスを行う事業者が直面するであろう法的な問題の全体像から具体的な課題まで皆さんと見ていきたいと思います。

主要ステークホルダーとその関係から起こりうる問題

法的な問題は利害関係がある人や組織の間で起こることがほとんどなので、まずはメタバース内における主要ステークホルダーを特定して、それらの関係性から起こりうる法的な問題を考えてみたいと思います。

一般的なメタバースを考えたとき、一番シンプルな形は、メタバースの空間を提供するプラットフォーマーと利用者という関係です。この場合、プラットフォーマーは仮想空間内で自社サービスやコンテンツをユーザーに提供することになります。

しかし、実際は自社サービスだけにとどまらず、(ユーザーが作り出したコンテンツ、いわゆる user generated contentsを含めた)第三者のサービスも同じプラットフォームで提供しているのが普通です。例えば、AppleのApp storeをプラットフォームとして考えた場合、Appleは自社アプリだけでなく、多くの他社が作成したアプリを同じApp storeで提供しています。Amazonも自社が小売として販売している商品も多いですが、第三者がAmazon内にお店を持つマーケットプレイスによる販売もあり、このマーケットプレイスの売上が年々上昇しています。

このように既存のビジネスにおいて、プラットフォーマーは第三者が提供するサービスをホストすることが一般的なので、メタバースビジネスでも、プラットフォーマーは、第三者のサービスを自社仮想空間内でも使えるようにしたり、第三者がお店を仮想空間内に構える(またはユーザー間で取引が行える)ことができると仮定するのが自然です。

そうすると、1)プラットフォーマー、2)サービス提供者、3)ユーザーという三角形の関係が成立することになり、その関係性から起こりうる問題というのが考えられるようになります。

例えば、1)プラットフォーマーと3)ユーザー間で起こりうる問題を考えると、ユーザーデータの消失やネットワーク障害によるメタバース空間へのアクセス制限などが起こったときの責任問題などが思い当たります。同じように2)サービス提供者と3)ユーザー間では、購入前の説明責任や提供されたサービスに欠陥や支障があったときの保証が考えられ、1)プラットフォーマーと2)サービス提供者の間では、サービス提供者の審査や不法行為の取り締まりなどで問題が発生する可能性が考えられます。

特定のビジネスによって検討すべき問題は様々ですが、ステークホルダーを特定してその関係性から発生知うるトラブルを事前に想定して、その対応策を考えておくと、法的なリスクを軽減することができます。

法的なリスクには契約が関わるものと、そうでないものがある

主要ステークホルダーの間の問題は、利用規約や出店契約などステークホルダー間で締結した契約に原則基づきます。そのため、契約で事前に起こりうる問題や責任の所在、そして対策が明記されていれば、法的なリスクはある程度限定でき、リスクコントロールができます。

Game terms and conditions

例えば、先程話したユーザーデータの消失に関する責任ですが、利用規約の免責事項で、プラットフォーマー側はいかなる責任も負わないというようなことを明記することができます。実際にそのような文言を利用規約に含めているゲーム開発社はめずらしくありません

しかし、契約ですべての法的リスクが管理できるというわけではなく、記載がなくても問題になる事柄や、契約に記載されていても法律の条項が優先されるような場合もあります。このような契約に関わらない部分(または規約よりも法律が優先される部分)での法的なリスクも把握しておくことがメタバースビジネスをする上で重要になってきます。

具体的な例を挙げてみましょう。

記載がなくても問題になる事柄で一番わかりやすいのは、不法行為です。事業者がマネーロンダリングや詐欺と思われる行為をしていれば、取り締まり機関から調査され、最終的には摘発されるかもしれません。また、他者の知的財産を侵害しているような場合やプライバシーに関するようなデータ流失もこれに該当すると思われます。

契約に記載されていても法律の条項が優先されるような場合の例としては、独占禁止法や消費者保護法などが該当します。特に、消費者保護法(consumer protection law)に関わるようなサービスの場合、利用規約において事業者の損害賠償の責任を免除する条項が明記されていても、その条項が無効になる場合があります。

また、事業に係る法律で言うと、日本が主な市場であっても、海外からサービスが利用できる環境であれば、各国の法規制が適用される可能性があります。国によっては、消費者保護に手厚かったり、プライバシー、未成年に対する保護が規制が厳しいなど様々なので、プラットフォーマーやサービス提供者が提供するサービスに影響を与える可能性があります。

また、問題が国をまたいで発生した場合どの国の法律が適用されるか?など、事前には対処しきれないリスクもあります。

メタバース 事業者が直面する12種類のリスク

メタバース 法律リスク

産業省がまとめたレポートによると法律分野だけでも12のリスクの種類が特定されています。簡単ですが、これらの点についての説明です:

  1. 仮想オブジェクトに対する権利の保護 ー 既存の法律の枠組みで認められている著作権や商標権などの知的財産(IP)に係る問題です。特にNFTに関しては、今は認められていないデジタル所有権や占有権のような新しい法的概念ができ、その概念に基づいた法律が出てくるかもしれません。
  1. 仮想空間内における権利の侵害 ー 1で話したIPに関する権利侵害もここには入りますが、それ以外には、セクハラや人種差別、いじめなどの問題が考えられるでしょう。場合によっては、人格権や人権の侵害問題も起こるかもしれません。  
  1. 違法情報・有害情報の流通 ー SNSでもある問題です。薬物や児童ポルノなど法律で禁止されているものに関する情報や、政治や医療のフェイクニュースを含む、実際に人に危害を与えかねない情報の流通に関する問題があり、事業者は何らかの摘発や取締を行う義務を負う可能性があります。
  1. チート行為 ー ゲーム性が高いメタバースはチーターとのいたちごっこになるかもしれません。特に、Play-to-earnのようにゲームをすることでインセンティブが与えられるものであれば、より複雑で組織的なチート行為が行われるかもしれません。またゲーム性が薄いものであっても、メタバース上で有名人や他人のなりすまし、人を騙したり、詐欺を行う可能性があります。
  1.  リアルマネートレード(RMT) ー メタバース内でNFTや仮想通貨を取り扱う場合、現金への換金が可能になるので、金融関連の法律が関わってくる可能性があります。また、そうでなくても、アカウントの売買、レアアイテムの取引、レベル上げやクエスト攻略の代行など、プラットフォームを経由しなくても現金のやり取りが行われる可能性があります。
  1. 青少年の利用トラブル ー メタバースが売春に活用されるリスク。日本では出会い系サイト規制法という法律もあるそうですが今後はメタバース内でも同じような規制があるかもしれず、それに対応する仕組みを備えておく必要があります。また、アメリカにはカリフォルニア州のCOPPA (Children Online Privacy Protection Act)という法律があり、13歳以下の子供のプライバシーに関するルールが定められているので、メタバースであってもユーザーの年齢を確認するような仕組みが必要になるかもしれません。
  1. ARゲーム利用による交通事故やトラブル ー ARヘッドセットなどのディバイスを利用したメタバースの利用はまだまだ普及していないのですが、今後のARヘッドセットの価格低下や専用アプリやエコシステムが普及すれば、そのようなディバイスを付けてメタバースを利用することが増えるかもしれません。そうなると、ヘッドセットを付けていることで起こる人身事故などは容易に想像できます。また、ヘッドセットを利用したものは臨場感が増すので、その結果、新しいカタチのユーザー間のトラブルや、いじめ、暴言などが社会的な問題になる可能性があります。
  1. マネーロンダリングや詐欺 ー 犯罪で得られた資産をメタバース内の活動で「きれい」にする行為に対する規制と取り締まり、怪しい投資話からアカウントの乗っ取りやポンジースキーム(ねずみ講)まで、幅広い詐欺行為の禁止とその取り締まりが考えられます。
  1. 情報セキュリティ問題 ー 個人情報の保護とプライバシーへの配慮です。Web3ではユーザーがデータを所有すると言われています。しかし、様々な法的リスクとコンプライアンスの観点からユーザーに関するデータはある程度プラットフォーマーやサービス提供者も把握して、独自に取得もすると思われるので、ハッキング対策はWeb3でも次事業者の課題の1つになりそうです。また、もしデータブリーチがあった際に迅速に対応できるよう、対応策と訓練も重要になってきます。
  1. 個人間取引にかかるトラブル ー Web3の世界ではユーザーとサービス提供者の切り分けが難しくなり、ユーザー間のデジタルアイテムの取引やあるユーザーが別のユーザーにサービスを提供するようなことも考えられます。そのため、現在ランサーズのようなフリーランスのサイトやメルカリなどの個人間の売買ができるサイトが抱えているようなトラブルに対する対処することがメタバース内でも求められてくるかもしれません。
  1. 国をまたぐビジネスにおける法の適用に関わる問題 ー メタバースはネットを通じて世界中からアクセスできるため、日本以外の国の法律が問題になることがあります。上記の例を挙げると、アメリカのカリフォルニア州によるCOPPAなどが当てはまると思います。
  1. 独占禁止法に関わる問題 ー 現時点では考えにくいですが、将来的にメタバース業界におけるGAFAのよう存在になるのであれば、主要各国から市場の独占を問題視されるようになるので、自ずと独禁法の問題が出てきます。

メタバース 事業者による法的リスクへの対策アプローチ

このように法的リスクだけ見ても実に多様な問題があるため、対策に関しても様々なツールや仕組みを使っていく必要があります。いろいろなアプローチがあると思いますが、ここでは下記の4つのレイヤーで考えるという点を紹介します:

アーキテクチャ ー メタバースで出来ることをコードで制限し、物理的な環境の限定や技術的な制約を設けることです。具体的な例を上げると、メタバース内でユーザーが行ける場所に制限をかける、特定の動きができないようにする、使用できるものを制限する、というようなことが考えられます。

市場 ー 市場原理 や インセンティブを活用して、運営側が良しとする行動にインセンティブを設けたり、逆に制限したい行為が行われた場合はペナルティを与えるといったものです。例えば、違反行為のレポートをしたユーザーに対して、メタバース内で使えるコインを発行し、違反行為をしたユーザーにペナルティーを与える。メタバース内で二次創作を簡単にするために、著作権ライセンスを簡単に与えられる仕組みや利用に応じてライセンス費用が支払われる仕組みなど。

規範 ー 事業者が自らルールを設け・取締や規制を行う仕組みです。これには利用規約やガイドラインなどが含まれます。それ以外には、業界団体が主導して自主的に管理されている仕組みを作ることから提携企業間の取り決めなど、民間組織による自主的な規制と取り締まりも含みます。

ー 法律 、条約、 条例など政府や国、自治体が主導して行うものです。法整備は時間がかかることが大半で、本来の趣旨とは異なる運用や抜け穴がある可能性もあります。また競合する法律がある場合、または、法律の文言の解釈が難しい場合は、規制や裁判における不正確性が増し、事業者にとっては大きなリスクになる可能性もあります。

このような4つのレイヤーを組み合わせて、事業者が直面する個別のリスクに対応することが求められます。しかし、この4つのレイヤーをうまく組み合わせるには様々な専門知識が必要なため、それぞれの専門家が協力し合う必要があるでしょう。

メタバース弁護士 野口剛史

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