今回から6回に分けて「Can’t Be Evil NFT Licenses はNFTの知財問題を解決できるのか?」で注目したa16zの NFT ライセンスの雛形6つについて解説していきたいと思います。今回は一番シンプルで「例外」で、著作権を一般に開放するCreative Commons CC0 に基づいたライセンスを見ていきます。
NFT の知財ライセンスの問題と提唱された6つのライセンスの違い
個別ライセンスの解説の前に、現在のNFTにおける知財ライセンスの問題点を整理します。
既存のNFTプロジェクトにおける著作権を中心とした知財(IP)ライセンスは統一された形がなく、プロジェクトにより記載内容が様々で、NFT保有者に認められている権利が不明瞭だったり、規約の文言に矛盾するものもあったりと、知財に詳しくないNFTコレクターにとってはとても理解しづらい内容になっています。また、NFTプロジェクトの中にはNFTライセンスが文面化されていないものもあります。
そこで、大手VCのa16zは2つの大手法律事務所と協力して、NFTに特化したIPライセンス契約を6つ作り、それらをすべて無料で公開しました。
ライセンスの種類が6つもあるのはそれぞれにライセンスの範囲が異なるためで、商用利用を認めるか(認める場合は排他性の有無)、ヘイトスピーチに用いられた場合にライセンスを破棄するか、著作権そのものを放棄するか、という観点で分けられています。
“CAN’T BE EVIL” NFT LICENSE CC0 (“CBE-CC0”)の概要
今回解説するのは、6つの中で最もシンプルで短い CC0 1.0 Universalのライセンスに関する契約です。この契約は、シンプルなのですが、著作権を一般に開放するCreative Commons CC0 に基づいたライセンスなので、残りの5つとは全く異なるもので、「例外」的な立ち位置にあります。
オリジナルの契約書はここからアクセスできます。ちなみにすべての契約書はArweaveでホストされており、改ざん不可で永久に保存・公開されることが保証されています。
CBE-CC0は1ページ半もなく、とても短い契約書です。というのも、著作権を維持しないので、ライセンスに関する内容も最小限にとどまっています。
“CAN’T BE EVIL” NFT LICENSE CC0 (“CBE-CC0”)の中身
では、実際にどのような内容がライセンスに書かれているのかを見てみましょう。
文章中で用語が定義されている
ます、このような文章が序文として書かれています。
ここではどのようなときに以下に書かれている規約の条項が適用されるか、また、与えられる権利の範囲が示されています。
ここでのポイントは言葉の定義が序文の中で行われていることです。契約による言葉の使われ方は重要で、原則同じ事柄を示す場合、同じ単語が使われ「言い回し」をすることはありません。言葉を定義する方法は様々で、専用のセクションを設けたり、Appendixに言葉を定義した一覧を設けたりする場合もありますが、今回は規約の条項や序文で最初に使われたときに定義する方法を採用しています。
このようなスタイルの定義の場合、直前に来るまとまった(修飾されている)名詞が定義の内容になっていることがほとんどです。今回は、序文で定義されている用語に関しては、赤線で定義の範囲を示してみました。例えば、”Project NFT”という言葉は、”the NFT project made available under this NFT License”と定義されているということになります。
また、定義されている用語は、Project NFT、NFT Media、Termsのように、文の最初でなくても最初の文字が大文字で表現されます。
契約書を読むポイントはキーワードを見つけること
様々な状況に合わせた言葉遣いをするため、契約書の文の構成は複雑になりがちです。しかし、キーワードを見つけ、文の構成を理解すれば、読みやすくなります。
例えば、この序文の最初の文では、”By”というキーワードの後にいろいろと書いてありますが、you agree to … という主語と動詞を見つけることで文の構成が見えて、どのような条件下において[Byからyou agree to …の前まで] NFTライセンス規約に同意するのかが書かれていることがわかります。
また、同じ様にキーワードを見つけて、文の構造を理解し、読み取っていくと、NFT保有者である自分がNFTの所有権を持っていますが、その一方(Howeberの後から)、NFT Mediaの権利については、契約書に書かれている内容に従うということがわかります。
このようにキーワードを見つけてそこから読み取っていくと、契約書の理解が高まります。
CC0の適用
条項1.1では、Project NFTに係るNFT Mediaにすべてに Creative Commons CC0 1.0 Universalが適用されることが書かれており、実際のCC0 1.0 Universalの規約へのリンクが示されています。
CC0は、基本的にNFT Mediaの著作権および著作隣接権に基づくすべての権利をパブリックドメインに捧げるものです。従って、他の“CAN’T BE EVIL” NFT LICENSEとは異なり、CC0のライセンスには、以下のものは含まれません:
- 個人的または商業的な使用制限
- NFTの販売または譲渡に伴うライセンスの終了
- コンテンツ標準の違反またはその他の違反によるライセンスの終了
また、一度CC0ライセンスを採用した場合、後で取り消すことはできません。
条項1.2では、NFT購入者が契約が合法的に成立する年齢であること、または、組織が購入者の場合、会社の代表として契約する権利がある人に限ることが示されています。
また、アメリカが反マネーロンダリング、反テロリズム、経済制裁などの目的で指定している組織や人物などが関わっていないことをNFT購入者が約束することが求められています。
アメリカでは18歳以上でなければ、合法的に契約することができません。なので、そのような年齢制限が明記されています。
また、指定組織関連の制限は日本で言う「反社」に関する文言に似ていると考えてもらったらいいと思います。
条項1.3は、この契約のテンプレートに関する免責です。6つすべてのライセンスに似たような免責が含まれています。テンプレートに関する訴訟やクレームをテンプレートの提供者にしないことが書かれています。
追加条項
次に、条項が2になり、追加の条項が示されています。
条項2.1では、クリエーターが任意で提供するであろう追加コンテンツ・特典があっても、クリエーターはそれらの追加特典を提供する義務はなく、NFT購入者はそれらを期待するべきではないとしています。
また、仮にそのような特典が実際に提供されたとしても、その場合は、このNFTライセンス契約ではなく、別途の規約の対象になる可能性があることを示唆しています。
NFTプロジェクトによってはNFTだけではなく、NFT所有者限定コミュニティやイベント、追加コンテンツ、Airdropなどがロードマップで示されているかもしれません。しかし、それらは「計画」されているかもしれませんが、実際に提供されるかはわかりません。そこで、このNFTライセンスでは、仮にそのような追加特典があったとしても、クリエーターにはそのような追加特典を提供する義務はないことが明確に示されています。
また、仮にそのような追加特典があった場合、特典によっては追加の利用規約やプライバシー保護に関する開示などが必要になってくることもあるので、ここで示されているNFTライセンス契約とは別に追加の条件がある可能性が示されています。
条項2.2は、ボイラープレートと呼ばれるような一般的な契約書でも最後の方に書かれている「お決まり」の規約がまとめられている部分になります。
ここでは、このNFTライセンス契約が当事者同士の完全かつ排他的な理解および同意を表していること、部分的に権利行使不可であっても契約全体には影響を及ぼさないこと、クリエーターはこの契約を他者に自由に譲渡できること、規約に違反した譲渡は無効になること、過去にこの契約における取締を怠ったとしても将来的な違反または不履行の取締を行う権利を放棄したという意味ではないこと、そしてNew York州の法律がこのライセンス契約に適用されていること、が示されています。
CC0ライセンスの内容はシンプル
CC0ライセンスは、著作権を一般に開放するCreative Commons CC0 に基づいたライセンスなので、今回のNFTライセンス内で定めるルールはほぼありません。実際の規約も1ページ半もなく、ライセンスの重要な部分はほぼ条項1.1だけでした。
クリエーターは著作権を開放したため、クリエーターからNFT所有者へ与えるライセンスは特にありません。なので、厳密に言うとこの契約は「ライセンス契約」ではないのかもしれませんが、他のNFTライセンスとの兼ね合いもあるので、“CAN’T BE EVIL” NFT LICENSE CC0と示されています。
CC0ライセンスは6つのライセンスの中で一番シンプルですが、一度CC0ライセンスを採用してしまうと後で取り消すことができないので、クリエーターであるなら、CC0が今取り扱っているNFTプロジェクトにふさわしいモデルなのかを慎重に検討し、必要なら専門の弁護士に相談した上で判断するようにしてください。
メタバース弁護士 野口剛史