NFT IPライセンス解説:“CAN’T BE EVIL” NFT LICENSE EXCLUSIVE COMMERCIAL RIGHTS WITH NO CREATOR RETENTION (“CBE-ECR”)

今回は独占的な商用ライセンスを含むNFTライセンスの雛形の解説です。前回紹介した非独占なライセンスよりも「特殊」な形のライセンスなので、利用は限定されるとおもいます。しかし、知財ライセンスにおける独占と非独占の違いを理解するのは大切なので、その点を重点的に解説するようにしました。

今回は、「Can’t Be Evil NFT Licenses はNFTの知財問題を解決できるのか?」で注目したa16zのNFTライセンスの雛形6つの解説の4回目です。

1回目はCC0に関するライセンスを解説、2回目は個人利用だけを認めるライセンスを解説し、3回目は非独占的な商用ライセンスを解説しました。よかったら見てください。

“CAN’T BE EVIL” NFT LICENSE EXCLUSIVE COMMERCIAL RIGHTS WITH NO CREATOR RETENTION (“CBE-ECR”)の概要

今回解説するのは、商用ライセンスを含むNFTライセンスに関する契約の派生の1つです。前回解説した非独占的な商用ライセンスを認めるバージョンをベースと考えると、「独占」した商用ライセンスを許可することを意図したライセンスなので、そのことが強調されたライセンス契約になっています。どのような部分が変わっているかは、後にライセンスの中身を見るときに詳しく解説します。

オリジナルの契約書はここからアクセスできます。ちなみにすべての契約書はArweaveでホストされており、改ざん不可で永久に保存・公開されることが保証されています。

CBE-ECRは5ページほどの契約書です。ボリュームはほぼベースラインの非独占的な商用利用のライセンスと変わらず、個人利用のみのライセンスに比べ多少長くなっている程度です。

“CAN’T BE EVIL” NFT LICENSE EXCLUSIVE COMMERCIAL RIGHTS WITH NO CREATOR RETENTION (“CBE-ECR”)の中身

では、実際にどのような内容がライセンスに書かれているのかを見てみましょう。

ほぼ全ての条項を見ていきますが、非独占的な商用利用を認めるライセンスと重複する点も多いので、重なる部分の解説は省略するか、異なる部分を強調することにします。詳しくは、非独占的な商用利用を認めるライセンスの解説を参照してください。

序文は同じ

まず、このような文章が序文として書かれています。ここではどのようなときに以下に書かれている規約の条項が適用されるか、また、与えられる権利の範囲が示されています。

この独占商用利用(ECR)の序文(左)と非独占商用利用(NECR)の序文(右)とを比較すると、全く同じであることがわかります。

なので、序文に関しては、非独占的な商用利用を認めるライセンスの解説を参照してください。

NFTメディアに対して「独占的」なライセンスが与えられているという意味は?

規約のコアの部分であるNFT Mediaのライセンスに関わる条項が1.1に示されています。便宜上、独占商用利用(ECR)(左)と非独占商用利用(NECR)(右)とを比較したものも表示します。

このECRライセンスで示されている「独占的」(exclusive)という意味は、「NFTメディアを商業化するためにクリエイターが特定の行為を行う権利を禁止する」というものです。

米国著作権法では、排他的(exclusive)ライセンスは、排他的にライセンスされる基本的権利の「著作権所有権の移転」とみなされます(他の国の著作権法は異なる可能性があるので注意)。そのため、独占的ライセンシーは、独占的ライセンスの対象となる権利を商業化する、あるいは独占的ライセンスの対象となる権利の侵害者に対して強制措置を取る唯一の能力を有します。このような理解が適用される場合、ライセンサー(クリエーター側)は著作権に関するほぼすべての権利を「譲渡」したと解釈されることもあるので、このような法的形式を用いると、ライセンス契約内の他の条項のいくつかは強制力を持たなくなる場合があります。

また、このように著作権に関する多くの権利がライセンシー(NFT購入者)に移転するため、独占的ライセンスは、特定のNFTのためのNFTメディア全体のユニークなイメージを形成するために異なる組み合わせに組み合わされるNFTメディアの個々のコンポーネント(帽子や眼鏡など)についての権利について混乱を生じさせる可能性があります。独占的ライセンスは、著作権で保護された構成要素を、それらの構成要素の特定の組み合わせのイメージ以外の構成で使用する権利という問題を引き起こします。

このように独占商用利用を認めるライセンスは、意図しない混乱やライセンスを黙認するように解釈されてしまう可能性があるので、特別な理由がない限り、NFTクリエータの大半は、非独占的商用ライセンスを採用するべきでしょう。

最後に、先程も少し触れましたが、米国著作権法の解釈によっては、米国法に基づく著作権の独占的ライセンスは、著作物の権利の「譲渡」とみなされる場合があります。また、独占的なライセンシーは、そのような独占的ライセンスを米国著作権局に記録しようとすることがあり、米国著作権局にそのようなライセンスを記録した元の当事者がその記録を取り消さない場合、または新しい購入者がその独占的ライセンスを記録しない場合、NFTの後の購入者に与えられた譲渡について混乱と紛争を引き起こす可能性があります。したがって、排他的ライセンスを有するNFTメディアの購入者は、そのような記録がなされているかどうかを米国著作権局で確認し、排他的ライセンスを有する権利の後発購入者の所有権に対する将来の異議を回避するために、ライセンス権の所有権が更新されていることを確認する必要があります。

クリエーター側の二次創作はNFT保有者による権利行使の対象になりえる

条項1.1にかかれている「独占的」の意味はすでに解説しましたが、条項1.2ではこの「独占的」なライセンスにより、クリエーター側の二次創作はNFT保有者による権利行使の対象になりえることが理解できるような表現になっています。

この点については、独占商用利用(ECR)(左)と非独占商用利用(NECR)(右)とを比較するとよくわかります。

比較すると、非独占商用利用(NECR)(右)であったクリエータによる二次創作の可能性の部分が独占商用利用(ECR)(左)では削除されているのがわかります。

また、条項1.2の後半部分では、「同じ、または、似た」二次創作ができてしまうことを理解した上で、クリエーターと他のNFT保有者をNFTメディアの利用や関連する二次創作などに関して訴訟などの争いを起こさないことに同意することが求められています。

しかし、ここでもクリエーターについては、この独占的なライセンスを与える前についてのもので、それ以降のものは対象外になっています。そのため、クリエーター側の二次創作はNFT保有者による権利行使の対象になりえることが読み取れます。

商標のライセンスは含まれていない

条項1.3には、このNFTライセンスには商標に関するライセンスが含まれていないことが明記されています。これは独占商用利用(ECR)(左)と非独占商用利用(NECR)(右)共に全く同じです。

契約の移転とsublicenseの取り扱い

規約1.4では売買の際のライセンスの取り扱いと、既存のsublicenseについての取り決めが示されています。これは独占商用利用(ECR)(左)と非独占商用利用(NECR)(右)共に全く同じです。

その他のNFTライセンスに関わる条項

このように、今回見ている独占商用利用(ECR)と前回見た非独占商用利用(NECR)のライセンスの間には多くの共通点があります。そのため、他の条項に関しては、特に独占商用利用(ECR)で注目したい点を見ていきます。

規約1.5の第三者コンテンツに関する責任については、非独占商用利用(NECR)と同様にNFTによる知財侵害の責任はクリエーター側にあると明記されていました。

Fractional NFTを含む様々な制約である規約1.6も非独占商用利用(NECR)と全く同じでした。

続いてライセンスは、DISCLAIMERS, LIMITATIONS OF LIABILITY, AND INDEMNIFICATIONという別の要素についてまとめられている部分に入りますが、この要素についても独占商用利用(ECR)と非独占商用利用(NECR)の差はありませんでした。

また、追加条項として書かれている条項3.1から3.4に関しても、差はありません。

なぜ独占的ライセンスなのに「すべての人」の利用をやめさせられないのか?

このように独占商用利用(ECR)と非独占商用利用(NECR)の違いはほとんどなく、新たに制限が加えられたのはクリエーター側への制限(二次創作ができないなど)でした。

「独占的」ライセンスのイメージは、自分だけが使えて、他の「すべての人」は使えないというものだと思います。そのため、実際にこの規約の解説を読んだときに、感覚のズレを感じた人も多いのではないでしょうか?

通常の「独占的」ライセンスの場合、自分以外の「すべての人」の利用を許さないことは可能ですが、契約の仕組み、また、NFTの特性上から、NFTライセンスの場合、自分以外の「すべての人」の利用を許さないことはできないと考えたほうがいいでしょう。

1つ目の契約の仕組みですが、これは契約関係にある当事者しか契約上の縛りを受けないということが大きいです。クリエーターはこのNFTライセンスの当事者で、最初にNFTを購入する人も当事者です。そのため、今回のライセンス契約の縛りを受けることになります。しかし、それ以外の人は第三者なので、契約で制限をかけることはできません。このコンセプトをPrivity(契約関係)というのですが、詳しくはこの記事を見てください。

関連記事:NFTを正しく理解するための 契約 法の基礎知識:あなたは何を買ったのか?

2つ目は条項1.2にもあったように、規約内で他のNFT保有者や過去のNFT保有者にはクレームできないことになっています。通常の独占的ライセンスの場合、自分以外が権利侵害の疑いがある場合、権利行使ができます。しかし、NFTの場合、似たような画像のコレクションが多いので、実際にお互いのライセンス範囲で認められた二次創作であっても、似通ったものが出来上がることが容易に想像できます。そのため、NFT保有者は条項1.2に該当する人たちを訴えることはできなくなっています。このような契約の縛りがあるため、独占的ライセンスなのに「すべての人」の利用をやめさせられない仕様になっています。

独占商用利用(ECR)ライセンスの利用は限定的

今回は、独占商用利用(ECR)を目的としたNFTライセンスを見てきました。非独占商用利用(NECR)の派生ではありますが、商用利用を認めるNFTプロジェクトであっても、あえて独占商用利用(ECR)を選ぶ必要性がない限り、非独占商用利用(NECR)をベースにライセンス契約を作った方がいいでしょう。

あえて独占商用利用(ECR)を選ぶ状況としては、「著作権の譲渡」を想定したNFTプロジェクトです。しかし、意図的な「著作権の譲渡」を含むNFT販売は稀で、そうであっても、パーツの著作権の取り扱いやNFT保有者による著作権局における意図しない登録など独占商用利用(ECR)を選ぶと意図しない権利周りの問題が発生する可能性があるので、独占商用利用(ECR)をベースとした規約を作る場合、専門家と相談して適切な変更を加えるようにしてください。

また、Bored Apeのような複数の似た画像が存在するPFPプロフェクトではなく、美術品で一品物のNFT作品であれば、十分この独占商用利用を活用する利点もあると思います。

メタバース弁護士 野口剛史

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