NFTライセンスに係る詳細なレポートやA16zによるライセンスの標準化の動きなど、NFTの知財への関心が高まっています。そこで改めて、トップ NFT プロジェクトの現在の規約から、NFT保有者に与えられている権利を見ていきたいと思います。今回は「所有権」(Ownership)に注目し、具体的な規約を用いて、一部IPのライセンス対象になる以外にNFT自体の所有権にはほぼ何の意味もないこと、そして、知的財産の権利者は別にいることを解説していきたいと思います。
NFT は3つのレイヤーで成り立っている
NFTと言うと、Bored Apeなどの画像を思い出す人が多いと思いますが、このような画像や動画、その他のアート作品などはNFTの一部にしか過ぎず、NFTの本質的な理解をするには、NFTブロック、NFTアート、利用規約という3つのレイヤーを意識する必要があります。
NFTを技術的に見ると、ブロックチェーン上のデータ(on-chain data)とそれ以外にあるデータ(off-chain data)にわけることができます。ここで示すNFTブロックと言うのは、on-chain dataであり、コントラクトアドレス、クリエーター情報、トークンのID、NFTアートが保存されているURIのアドレス等が含まれています。これらはブロックチェーン上にあるため、発行されてからのすべての履歴が参照でき、改ざんできないデータとなっています。これが1つ目のレイヤーになります。
続いて、先ほども出た画像等のNFTアートです。これらはNFTブロックにリンクが記載されているブロックチェーン外のデータで、通常はアマゾンのAWSやIPFSという分散型のデータ保管サーバーに保存されていることが多いです。これらのデータはoff-chain dataのため、保存場所へのデータ障害が発生したらアクセスしづらくなり、サービスが終了した場合、そのデータ自体にアクセスすることができなくなってしまいます。
このNFTの技術的な側面については、私の別の記事を参照してください。
関連記事:NFT の本質は?技術的面から見るNFTのホントの姿
更にこの上に、利用規約によって、NFT保有者に与えられている権利、NFT発行元の義務・責任、NFTを保有・利用する上でユーザーが合意したと見なされるさまざなま制限や問題解決の手段等が書かれています。
このように、NFTを3つの要素が重なり合って成り立っていると考えるとわかりやすく、それぞれの重要な役割がわかると思います。
NFT の所有権と知財の権利者は別々に存在する
NFTと知財を語るときに、NFTを所有しているからと言って、関連するNFTアートの著作権を保有しているのではないという説明がよくされますが、それは利用規約による取り決めで決まります。
実際の例を見ながら話すとわかりやすいと思うので、有名所の規約をいくつか出しながら説明していきたいと思います。
今回は時価総額が高いPFPプロジェクトを中心に見てみました。実際に規約を読んだ10プロジェクトのリストはこちらです。
まずNFTの所有権と知財の権利者は別々に存在することがよくわかるのが、最近規約を改定したCryptoPunksだと思います。
規約の1. Ownershipを見ると、このように書かれており、NFTの保有者はあくまでも特定のCryptoPunkのNFTを所有しているだけで、そのNFTアート(ここではCryptoPunk Artと表現されている)に関する知財はすべて権利者であるYuga Labsが持っていることが明確に示されています。
NFTの保有者は、「保有する特定のCryptoPunk NFTを含むブロックチェーン取引を保有、販売、譲渡、実行する排他的権利を有している」と書かれていますが、これはNFTブロックを替えして行える手続きを示しているだけで、特別な権利ではありません。Yuga LabsはこのCryptoPunk NFTの所有権について変更する権利はないと書かれていますが、そもそもブロックチェーン上のものなので、技術的にYuga Labsがどうこう出来るものでもありません。つまり、利用規約上でユーザーによるNFTの所有を認めることは、利用規約を結ぶ当事者であるYuga labsに不利益になるようなことは1つもないと言っていいでしょう。
続いて、NFTアートに係る知財を誰が所有しているかについて書かれていますが、そこはYuga Labsが権利者であることが明確に示されています。Yuga Labsは、「CryptoPunk Artに含まれるすべての著作権、商標、およびその他の知的財産権(以下「IP」)を含む、すべての権利、権原、および利益を所有するもの」と明記されているので、NFT保有者には一切のIPの権利がないことがわかります。
しかし、必要なIPがないままNFTの保有者として認められている「ブロックチェーン取引を保有、販売、譲渡、実行する」行為をしてしまうと、NFT保有者がYuga Labsの知財を侵害することになってしまう可能性があるので、NFT保有者にはYuga LabsのIPのライセンスが行われるという仕組みになっています。
このようにNFTの所有権と知財の権利者は別々に存在することを明確に示す利用規約は多く、別の例を上げるとDoodlesの利用規約でも、その旨が明確に示されています。
Doodlesの利用規約はCryptoPunksよりもNFT保有者がどのようなものに対して所有権を持っているのかが明確に書かれていませんが、知的財産については明確にDoodles, LLCが所有していることが書かれています。
著作権を放棄した NFT プロジェクトでも知財の権利者は発行元であることが明確に示されている
また、最近画像に関する著作権を放棄し、CC0に指定したMoonbirdsを発行するPROOF Holdings, Incも、その他のIPに関しては、PROOFが保有していることを明確に示しています。
関連記事:Moonbirds から CryptoPunks まで 利用規約 の大きな変更の波
特に、Moonbirds関連の商標とサービスマークに関しての取り決めと禁止事項については詳しく書かれていることがわかります。
IPライセンスが与えられている=IPの権利は運営元にある
また、利用規約にNFT保有者へIPに関するライセンスを与える条項から、間接的にIPに関する権利はすべて発行元にあることが理解できる例もあります。
これはBored Ape Yacht Clubの規約の一部なのです。
「あなたは、基礎となるBored Ape、アートを完全に所有している。」(you own the underlying Bored Ape, the Art, completely)という表現から、一見、画像の著作権についてもNFT保有者が持っているかのようにも思えます。
しかし、Yuga Labsが画像に対する個人利用と商用利用のライセンスを与えていることから、著作権を含めたすべてのIPはYuga labsにあるという理解の方がより適切だと思われます。
また、PUDGY PENGUINSの規約でも、明確に知財の所有権については示されてはいませんが、ライセンスがCreator(つまり、PUDGY PENGUINSの発行元であるLSLTTT HOLDINGS INC)からNFT保有者に与えられているので、
また、PUDGY PENGUINSの規約でも、明確に知財の所有権については示されてはいませんが、ライセンスがCreator(つまり、PUDGY PENGUINSの発行元であるLSLTTT HOLDINGS INC)からNFT保有者に与えられているので、CreatorがIPの権利を持っていると理解することができます。
唯一の例外はWorld of Women
World of Womenの規約は他のプロジェクトとは別で、実際の著作権(の一部)の譲渡を意図したものです。そのためか、規約のタイトルもWorld of Women digital ownership assignmentとassignment (譲渡)を行う契約y書のタイトルとなっています。
規約自体も例えば上記 3. Primary Assignment のように、Creator(発行元)がNFT保有者に知財の譲渡を行うという旨の条項が示されています。
この著作権の譲渡に関する契約には、発行元と発行元からNFTを買ったPrimary Ownerとの間だけでなく、それ以降の保有者である subsequent Ownersに関する規約があります。このような将来的なNFT転売による権利のスムーズな譲渡を事前に取り決める意図は十分理解できるのですが、契約関係(Privity)の問題があるので、法的にこのような著作権の譲渡書が二次販売にも有効なのかは疑問が残ります。
関連記事:NFTを正しく理解するための 契約 法の基礎知識:あなたは何を買ったのか?
この問題は今回のテーマから外れるので、またの機会に考察してみようと思いますが、NFTにリンクされている画像の著作権等をNFT保有者に譲渡するような契約である場合、World of Womenの規約のように、譲渡の意思を示す言葉(assign)と関連する条項(assignmentなど)が必要になります。
他のプロジェクトではそのような文言が使われておらず、知財は「ライセンス」にとどまっているので、NFT保有者には著作権等の権利は移行しないと考えるのが一般的な理解となっているわけです。
まとめ
今回はNFTの「所有権」と知財権利者の区別という点で様々な規約を見てきましたが、一部の例外を除いて、ほぼすべてのNFTプロジェクトがIPの権利を保有しており、自己の判断でNFT保有者に限定的なIPのライセンスを与えていることがわかります。著作権を含む知的財産の譲渡に関しては、その意思を契約書内で明確に示すことが求められます。そのような表記がない場合、NFT保有者は購入したNFTに関連する画像に対しては発行元からライセンスを与えられていることを理解し、規約で許可されている範囲で画像の利用を行うことをおすすめします。
メタバース弁護士 野口剛史