NFT の本質は?技術的面から見るNFTのホントの姿

毎週書いている深堀りコラムでは、法的な観点からメタバースやNFT、ブロックチェーンゲームなどの話をしていますが、法的な視点を理解するにあたって技術的な部分の理解も大切になってきます。そこで今回は NFT の技術的要素に注目して、「NFTとはどういうものか」を考察し、NFTの本質を探っていきたいと思います。

NFT を一言で言い表すと

NFTを一言で言い表すと「ものを買ったときにもらうレシート程度のもの」だと私は考えています。NFTはデジタル所有権だと考える人もいますが、現時点ではNFTすべてに所有権を認めるような法律はないので、「NFT=デジタル所有権」と考えるのは語弊があると思います。

このような誤解は、NFT1つ1つがユニークで、各NFTの発行元や取引履歴がブロックチェーン上に記録され追跡できるというような技術的な特徴から来ていると思うので、今回はNFTの仕組みを理解することでNFTに対する理解を深めたいと思います。

抽象的にNFTの仕組みを説明するよりも具体例を出した方がわかりやすいと思うので、2022年現在の最も一般的なNFTの活用方法であるプロファイル画像 (Profile picture, 略して “PFP”) コレクションで一番有名な Bored Ape Yacht Club を例に取って話を進めます。

ブロックチェーン上に記録され追跡できる

NFTとはNon Fungible Tokenの略で、ブロックチェーンと呼ばれる分散型台帳に記載されるものです。取引が開始されると、その取引に関するデータがブロック化されます。ブロック化されたデータ(ブロック)は、ネットワーク上の複数のノードに送られ、複数のノードによってコンセンサスがとれ、取引が承認されると、ブロックが既存のチェーンに追加されます。その後、追加されたブロックを含むチェーン(ブロックチェーン)が各ノードに送られ、情報がアップデートされます。

ブロックチェーンに記載されたデータは後から変えることができず、主に取引の履歴を記録するために使われています。また取引は複数のノードによって検証されているため、不正を行うことが非常に難しく、ブロックチェーン上の履歴をたどることで、後日取引を追跡したり検証することができます。

各データブロックには、1)データ、2)ハッシュ値(ブロックのデータ内容から得られる一意の番号)、3)直前のブロックのハッシュ値、が含まれています。 データは、送信者、受信者、転送された暗号資産の量やNFTに関する情報など、さまざまなメタデータ(metadata)を含むことができます。

このようにNFTの取引はブロックチェーン上に記録され追跡できるようになっているので、特定のNFTの取引について知りたい場合は、ブロックチェーン上のレコードを参照することで特定の情報を手に入れることができます。

例えば、Bored Ape#5604に関する過去の取引を見てみましょう。

Bored Apeはイーサリアムネットワーク上のNFTなので、Etherscanで取引履歴を確認することができます。

取引履歴を見てみると、特定のNFTがミント(発行)されてから現在までの取引状況がわかります。このBored Ape#5604は、過去に4回売買されており、その取引時期や値段、取引の当事者のウォレットアドレスが一覧で表示されています。

またトランザクションハッシュ(またはトランザクションIDとも呼ばれ)とも呼ばれる各取引のTxn Hashをクリックすると、それぞれの取引に関する詳細も知ることができます。

このようにNFTの取引はすべてブロックチェーン上に履歴が残るため、デジタルアートであってもブロックチェーン上の履歴を確認することで、コピーされたデジタルアートとオリジナルを区別することができます。

しかし、コピーとの区別ができるからと言って、NFT自体はコピー防止はありません。実際にコピーされたNFTが販売され訴訟沙汰になっているケースもあります。

関連記事:NFTの模倣は止められるのか?有名NFTスタジオが 商標侵害 訴訟を起こす

暗号資産とは異なり1つ1つがユニーク

このようにブロックチェーン上で取引が管理され記録が追跡できるという点では暗号資産(仮想通貨とも呼ばれる)もNFTも同じです。しかし、暗号資産とNFTの大きな違いの1つがNFTの持つ Non Fungible という特徴です。Non Fungible とは、他のものに変えることができないという意味で、非代替性と呼ばれることもあります。この非代替性という特徴がNFTは1つ1つがユニークだと言われる理由でもあります。

例えば、暗号資産で一番有名なビットコイン (BTC) は、すべてのビットコインが別のビットコインと交換可能です。これは1ドル札を考えてもらえるとわかりやすくて、あなたが持っているすべての1ドル札は、別の1ドル札とまったく同じで、区別されないし、交換可能になっています。ビットコインも代替性という点ではお札と同じです。

しかし、NFTの場合、代替性がない(つまり非代替性がある)ため、1つのNFTを別のNFTとを同じものとして扱うことができず、交換することはできません。例えば、同じ Bored Ape のNFTコレクションでも、上記の画像のようにそれぞれが異なるデザインで価値も異なります。このように1つのNFTを別のNFTと区別できるため、NFTは1つ1つがユニークだと言われるのです。

Smart contractで成り立っている

一番有名な仮想通貨であるビットコインは、ビットコインネットワークというブロックチェーンを使っていますが、NFTは別のイーサリアムというブロックチェーンを使っているものがほとんどです。それはイーサリアム上では、プログラミングが可能だからです。

イーサリアムネットワークでは、ブロックチェーン上でプログラムを実行できるので、ビットコインネットワーク上よりもより高度な取引が可能になります。例えば、イーサリアムネットワーク上のDecentralized Finance(略してDeFi)であるAaveというサービスを使うと、様々な暗号資産を預けて金利を稼いだり、預けた暗号資産を担保に別の仮想通貨を借りることもできます。これらはプログラミングが可能なイーサリアムブロックチェーンだからできることです。

そして、NFTもプログラミングされたsmart contractという機能を使うことで成り立っています。

Smart contractは、名前にcontractと書いてあるので「契約書」の代わりと考える人もいますが、ブロックチェーン上で実行可能なコードに過ぎないので、一般的な契約書とは異なるものです。しかし、smart contractを使うことで、ある取引に対して決まった行動を自動的に行うことができます。例えば、NFTを最初に発行することをミントと言うのですが、そのときのブロックチェーン上で行われるべきアクションをプログラミングしておけば、任意のタイミングでユーザーがミントしたときに、予め決められた形(例えば、コレクションの中からランダムで1つのNFTを選ぶ)でNFTを発行することができます。その他にも取引ごとにNFTの所有者が自動的に変更するようになっているのはsmart contractのおかげです。

また、NFTのsmart contractであるコントラクトソースコードは公開されていて、Etherscanでも確認することができます。

ちなみに、NFTにはERC721という規格があり、仮想通貨に用いられるERC20よりも複雑な規格で、複数のオプション拡張があります。NFTの場合、OpenSeaなどのマーケットプレースでオークションに賭けられることが多いのですが、ERC721は、個人によって所有され取引される場合とは別に、第三者のブローカー/ウォレット/オークショニア(「事業者」)に委託される場合のユースケースにも対応した規格になっています。

NFT アートはおまけ的な存在

NFTというと一般的にはNFT化されたデジタルアートやJPGイメージを想像すると思いますが、NFT自体にこのようなデジタルアセットが保存されているケースはほとんどなく、ブロックチェーン以外の場所に保存されているのが一般的です。このようにブロックチェーンの外に保存されている情報をオフチェーンデータといい、ブロックチェーン自体に記録されている情報をオンチェーンデータと言います。

このデータの保存場所というのはNFTを理解する上で大切になってくるので、便宜上、ブロックチェーン上に存在するメタデータをNFTブロック、画像データをNFTアートとしたいと思います。

ここで、もう一度EtherscanのBored Ape#5604の情報を見てみましょう。そのDetailsの中のClassificationを見てみると、”Off-Chain (IPFS)”と書かれています。これはNFTアートがどのように保存されているかを示すもので、”On-Chain”であればブロックチェーン上にデータが保存されていますが、”Off-Chain”であればデータは別の場所に保存されているということになります。

つまり、黄色い帽子をかぶったサルの絵(NFTアート)は、ブロックチェーン上に保存されているのではなく、それ以外の場所に保存されているということになります。ちなみに、IPFSは InterPlanetary File Systemの略で、分散型のファイルシステムでデータを保存・共有するためのプロトコルおよびP2Pネットワークです。イメージとしては、DropboxやGoogle driveのようなクラウドストレージを考えてください。

このページにはそれ以上の情報は書かれていませんが、スマートコントラクトを利用することで、NFTアートが保存されているページにアクセスすることができます。

多少めんどくさいですが、まずはBored Apeのコントラクトアドレスのページに行きます。Bored Apeのコントラクトアドレスは、0xbc4ca0eda7647a8ab7c2061c2e118a18a936f13d で、Bored Ape#5604のページから直接行けます。

そこから “Contract”をクリックし、さらに “Read Contract” を押すと、上記のような画面が表示されます。

このContractタブの画面でToken URIを調べると、IPFSアドレスがわかります。試しに、Bored Ape#5604の番号「5604」と入力すると、Bored Ape#5604のIPFSアドレス(ipfs://QmeSjSinHpPnmXmspMjwiXyN6zS4E9zccariGR3jxcaWtq/5604)が表示されます。

このIPFSアドレスにアクセスすると、オリジナル画像へのリンクやBored Ape#5604の特徴タイプを含む上記のようなテキストデータが表示されます。しかし、Chromeのような一般的なウェブブラウザーでは、デフォルトでipfsアドレスは対応していないので、アクセスするにはIPFS Companionのようなadd-on を使う必要があります。ちなみに赤で囲った部分がオリジナル画像のリンクを含む情報で、”image”のipfsアドレスをコピーして、ブラウザーのURLに貼り付けると、「オリジナル画像」にアクセスできます。

この画像は、実際にIPFSアドレスからアクセスできたBored Ape#5604の画像を保存したものです。

Bored Apeの画像はIPFSという少し特殊なプロトコルで動いているファイルシステムに保存されているものの、オリジナルの画像へアクセスするのにパスワード制限も特別な認証も必要ありません。そのためリンクにたどり着くことができれば、だれでも簡単にオリジナルの画像を見ることができます。

私達が一般的にNFTと認識するものはこのNFTアートですが、そもそも画像データ自体がブロックチェーン上に存在しておらず、NFTブロックから「リンク」されているだけなので、NFTアート自体をNFTとして捉えるのは語弊があるのかもしれません。なので、私はNFTアートは「おまけ的な存在」として考えています。

このようなNFTの技術的特性を見てみると、Bored Apeを始めとするデジタルアート系のNFTを買うということは、誰でも見ることができる「NFTアート」を指すURIであるテキストファイルが保存されているイーサリアムブロックチェーン上の特定の場所にある「NFTブロック」を買ってことに過ぎないと言えるのではないでしょうか?

NFT アートにアクセスできなくなる?

ほとんどのNFTアートはオフチェーンで管理されていると話しましたが、ブロックチェーン上に保存されていないため、将来的にNFTアートにアクセスできなくなる可能性があります。

オフチェーンでNFTアートを保存するときの大きな問題は、デジタルアートの保管場所に人々をリンクさせることだけを目的としたスマートコントラクトにあります。もしスマートコントラクトが「リンク」しか提供できない状態で、オフチェーンの保管システム/ネットワークに障害が発生した場合、スマートコントラクトが提供する「リンク」は役に立たなくなり、画像にアクセスできなくなってしまいます。

もし数千万円もするNFTのデジタルアート画像にアクセスできなくなったら、そのNFTの価値はどうなるのでしょうか?

このようなリスクがあるならオンチェーンによるNFTアートの保存の方がいいのではと思いますが、データ容量の問題で現状の技術ではオンチェーンでのNFTアートの保存は難しく、オフチェーンであっても比較的セキュリティに強く分散型のファイルシステムであるIPFSが一般的なNFTアートの保存場所になるでしょう。

誰でもアクセスできる画像を「持つ」ことに意味はあるのか?

Bored Apeの画像はIPFSという少し特殊なファイルシステムに保存されているので、オリジナル画像にアクセスするのは多少の手間がかかりますが、オリジナル画像にアクセスするのにパスワード制限も特別な認証も必要ないので、だれでも簡単にオリジナルの画像をコピーできてしまいます。実際に、私もBored Ape#5604のオリジナル画像をPNG形式でパソコンに保存することができました。

さらに言うと、コピーされたオリジナル画像には特に技術的なコピー保護機能が備わっているわけではないので、コピーされたオリジナル画像を元に新たにNFTをミントすることは技術的には可能です。ただ、同じ「オリジナル画像」のNFTであっても、ブロックチェーン上の履歴やコントラクトアドレスなどは全く違うので、本物と偽物の区別は付きます。

しかし、同じ画像に関連した複数のニセモノNFTが多数存在してしまうと、その希少価値から高額で取引されているオリジナルの価値に影響が出てしまう可能性があるでしょう。現にOpenSeaではニセモノが横行していることが問題視されており、活発な模倣品対策が行われています。

このように誰でもアクセスでき、ちかも、コピーまで簡単にできてしまうNFT化された画像を持つことにどのような価値があるのでしょうか?

NFTはデジタル所有権なのか?

NFTは「所有証明書付きのデジタルデータ」と表現されることもあり、あたかも法的に所有権が認められているかのような説明がなされていることがありますが、一概にすべてのNFTに対して所有権を認めるような法律はありません。

今回の技術的な考察を振り返ってみると、一般的なNFTは「レシート」程度のものだと考える方が適当なのかもしれません。実際のBored Ape#5604のブロックチェーン上の取引履歴を見ても、取引されたNFT、取引の日時、取引金額、買い手と売り手の情報が記載さえていました。更に言うなら、NFTの取引を追跡できるという特徴を考えると、「オリジナルのオーナーまで遡る過去の取引のレコードも含めたレシート」と表現するのがいいのかもしれません。

このレシートとしての役割を果たすNFTは、ブロックチェーン上の「NFTブロック」を示していて、画像データである「NFTアート」は、ブロックチェーン上にはそのデータへの「リンク」だけが記載されていて、実際の画像はオフチェーンで保存されています。

今回はNFTの技術的な側面を見てきましたが、普段私達がNFTとして認識している画像データはNFTの一部に過ぎず、ちかもNFT技術の本質的な部分ではなく、おまけのような存在感のものでした。自分がNFTを買ったときに「何を買ったか?」を理解するには、ブロックチェーン上の情報や履歴を見るだけでは不十分で、チェーン上には保存されていないオフチェーンのNFTアートを見る必要もあれば、関連する規約や契約も確認する必要もあります。今回は技術的な話に集中したので触れませんでしたが、NFTを購入した際に販売(オークション)ページに示されている個別の購入条件、利用したプラットフォームの一般的な利用規約、また、NFTの発行元であるプロジェクト組織やアーティストが定める利用規約などを理解することは重要です。

これら技術的な要素や法的な要素が複雑に絡み合うNFTを一概にデジタル所有権を示すものと定義してしまうと語弊があるように思えます。そうではなく、NFTを一般的には「ものを買ったときにもらうレシート程度のもの」と捉えて、個別のNFTを取り巻く関連情報や状況を整理して、それぞれの事実に適したNFTのユニークな性格を見極めていく必要があると考えます。

メタバース弁護士 野口剛史

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