規制 圧力対応とその反動によるトークンの暴落

クリプトゲームの場合、稼げるという「play-to-earn」のモデルやユーザーデーターなどの取り扱いが原因で、特定の国や地域でサービスが提供できないという状況がありえます。今回のように、 規制 を未然に回避するためにユーザーが多いと思われるマーケットから撤退すると、ゲームに関連するトークンの暴落にもつながるので、クリプトゲーム開発者としてはこのような国ごとの規制リスクを考慮することが重要でしょう。

 move-to-earn gameのパイオニア的存在のSTEPN

今回中国のユーザーに対するサービスを停止することを発表したSTEPNは、ウォーキングや、ジョギング、ランニングをすることで「稼げる」ゲームの1つです。ユーザーは、アプリをダウンロードして、ゲームに使用するさまざまなスニーカーのNFTを購入することができます。この辺の仕様は、Axie Infinityと同じですね。

購入後、ユーザーは散歩やランニングの際にアプリを開き、持っているNFTスニーカーを使って、歩いたり走ったりすることで「ゲーム」をプレーし、その速度や距離に応じてGSTトークンを獲得することができます。また、NFTのスニーカーを他のプレーヤーに貸すことでもGSTを獲得できます。

得られたGSTトークンは、NFTスニーカーのアップグレードや修理に使用することができます。STEPNのもう1つのトークンGMTは、ゲームをプレイすることでも獲得できますが、保有者はさまざまなアクティビティにアクセスしたり、スニーカーの名前を変更したりするなどの特典を得ることができます。

このように自分が実際に動くことで「稼げる」ため、STEPNはmove-to-earnと呼ばれ、そのパイオニア的な存在になってきました。

実質的な中国ユーザーのブロックでトークンの売りが先行する事態に

このように「移動して稼げる」サービスとしてSTEPNは人気を集めていましたが、先週金曜日に発表された実質的な中国本土ユーザーのブロックというアナウンスを受けて急落しています。内容は中国語で書かれていますが、「中国本土のユーザーが見つかった場合、STEPNは利用規約に従って2022年7月15日24時(UTC+8)に彼らのアカウントへのGPS提供を停止します。」と発表されています。

また、「我々は、中国本土のユーザーをブロックします。STEPNは設立以来、中国本土でいかなるビジネスも行っておらず、ダウンロードチャネルも提供していません。」と言う声明も発表しました。

このことを受け、中国ユーザーによるトークンの売りが先行したのか、アナウンスがあった金曜日以降もGSTトークンの値が下がっています。

分析データによると、現在のSTEPNユーザーは58万人以上でアクティブ数は3万9000人と推定されています。中国本土のSTEPNプレイヤーの正確な数を知るための有効な統計はありませんが、Weibo(中国で最も人気のあるソーシャルプラットフォーム)のトップ検索ワードとしてトレンドになっているところから見ると、ある程度の規模のユーザーベースがあったことが考えられます。

中国の規制当局の圧力か?個人情報保護法による規制を避けるための予防措置?

私の調べた範囲では、直接中国の規制当局からSTEPNに何らかの圧力があったかどうかは確認できませんでした。

しかし、中国には個人情報保護法(Personal Information Protection Law。PIPL)があり、過去には、この規制に対応するために、AppleTeslaが、中国にデータセンターを建設した経緯があります。

このPIPLは、企業が中国人のデータをどのように扱い、処理するかを規制するもので、その構造は欧州連合の一般データ保護規則(General Data Protection Regulation。GDPR)と比較されることが多いです。これは、データの輸出、特に位置情報を含む機密データとして定義されるものを規制するもので、中国のデータ安全法(Data Security Law。DSL)を補完するものです。

今回のアナウンスでは、中国本土のユーザーのGPSのトラッキングを停止するというものなので、このDSLとPIPLの対策としてとった行動だと考えられます。

DSLとPIPLによると、機密データの輸出は禁止されていませんが、原則では中国本土に保存されるべきということが示されています。万が一、データを輸出する必要がある場合は、ウェブベースのビジネスを規制する中国サイバー空間管理局(Cyberspace Administration of China。CAC)によるセキュリティ評価を受けなければならず、匿名化する必要がある可能性が高いです。

STEPNは、中国でビジネスをしたことがないと主張しているオーストラリアに本社がある企業です。しかし、ヨーロッパのGDPRと同様に、中国のデータ規則は治外法権的です。そのため、企業が海外に拠点を置いていても、中国に由来するデータを扱えば罰せられる可能性があります。

このような法律による規制から中国本土におけるビジネスは難しいと判断したのか、STEPNは、今回のアナウンスメントで、実質的な中国本土マーケットからの完全撤退をしたことになります。

メタバース弁護士の見解

どうやらSTEPNの市場は日本とアメリカが大きいようです。しかし、中国まで厳しいとは言いませんが、日本でも「遊んで稼げる」系統のゲームは法律的にグレーゾーンにいるような取り扱いがされることがあります。

「play-to-earn」の代表的なゲームAxie Infinityの日本における法的な問題について詳しく分析されている記事もあり、今回のmove-to-earn gameのSTEPNの日本における法的な問題も今後ユーザーが多くなるにつれ、表面化してくるかもしれません。

クリプトゲームすべてが日本ではダメということではないようなのですが、ゲームを開発する側も、また、ゲームを利用するプレイヤー側も、クリプトゲームに関わる法律を理解し、国ごとの規制リスクを知ることが大切だと思います。

今回のように、実際にアプリやサービスが使えなくなる地域にいなくても、関連するNFTやトークンが暴落する可能性もあるので、今回のニュースで改めてクリプトゲームにおける法律の重要性を再認識することができました。

参考記事:Stepn ‘Move-to-Earn’ Cryptocurrencies Plummet After App Says It Will Block Users in China

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