「名称.com」の争いから「名称.eth」や「名称.nft」に変わりますが、ドットコムバブルで問題になった サイバースクワッティング がWeb3になっても大きな課題として取り上げられる可能性があります。法整備がまだ十分ではないので、法律リスクを考慮した戦略的な対策が求められます。
サイバースクワッティングとは?
サイバースクワッティングとは、他人が商標権を持っているマークから不当に利益を得ることを意図して、インターネットドメイン名を登録、取引、または使用する行為です。例えば、tiktokcharts.com、secure-wellsfargo.org、paypal.netなど、単純な単語や有名な商標を含むドメイン名を登録し、TikTok、Wells Fargo、PayPalなどの実際の商標権者にドメインを売却して利益を得るような行為をいいます。
このようなサイバースクワッティング行為は、1990年後半に起きたドットコムバブルで世界的な大企業を困らせる結果になり、1999年にこのような行為を抑制する法律を2つ制定しました。1つは米国におけるAnti-Cybersquatting Consumer Protection Act(ACPA)で、もう1つはICANNにおけるUniform Domain-Name Dispute-Resolution Policy(UDRP)です。ACPAは、サイバースクワッターが商標を含むインターネットドメイン名を登録し、そのドメイン名を商標権者に売り戻すことを防止することを目的としており、UDRPは、商標権者に商標を使用したドメイン名、あるいは、商標と混同される可能性のあるドメイン名の譲渡を差し止める権利や商標権者に譲渡させる権利を提供するものです。
Web3の世界でも本質的な違いはなし
Web3でもサイバースクワッティングのゲームは変わりません。しかし、DNSの代わりにENSで問題が発生しています。
ENSはイーサリアムネームサービスの略で、従来のドメイン名サービス(DNS)のように、一見任意に見える数値のサーバーアドレスを利用者にわかりやすい名前にリンクさせるブロックチェーンを利用したサービスです。近年の暗号資産やNFTの人気にも相まって、最近100万人目のユーザーを登録したとのことです。
暗号資産を管理するウォレットのユーザーは、他のユーザーのユーザー名や電子メールアドレスを入力するだけではまだ暗号資産を送受信できません。しかし、fallon.eth や vitalik.eth といったENS名を登録することで、複雑なウォレットアドレス番号ではなく、よりわかりやすいアドレスを使って取引をすることができます。
ENSドメイン名の買いあさり
1990年代のドットコムバブルに見られたように、サイバースクワッターたちは、有名な商標を含む.ethドメイン名を積極的に買いあさろうとしています。例えば、OpenSeaでは、nike.ethとamazon.ethの両方が、7桁の金額を支払ってくれる買い手に売りに出されています。この市場は活発で、Adele.ethは最近6,000ドルで売れ、boy.ethは65,000ドルで売れましたが、他の低価格のドメインは数ヶ月間売れていません。一般的に、.ethドメインの登録は、四半期ごとに増加しています。
ENSドメイン名の取り締まり手段
.ethドメインの出現は、法的なしわ寄せももたらしています。DNSとは異なり、ENSはイーサリアム・ブロックチェーンを利用したオープンな分散型ネーミングシステムです。つまり、.ethドメイン名はICANNの管轄外であり、従来のUDRPの請求は管轄外であるためうまく行かない可能性が高いです。
ICANNの助けが得られないと仮定した場合、自社の商標が他人によって.ethドメインとして主張されていることを発見したブランドオーナーはどうすればよいのでしょうか?
現在のところ2つの戦略がありますが、どちらも商標権者にドメインを強制的に引き渡すことはができないという点に注意してください。
1.テイクダウン通知
まず、商標権者は、侵害する.ethドメインを販売しているマーケットプレイスにテイクダウン通知を送る必要があります。(効果の程度に差はありますが)OpenSea、Rarible、およびNifty Gatewayはすべて、知的財産権の侵害に対処するための手順を備えています。
例えば、OpenSeaにテイクダウン通知が送られると、OpenSeaはドメインの所有者に、テイクダウン要求により出品が削除され、一般には販売されないことを通知します。この通知を通じて、ドメイン所有者とブランド保持者が連絡を取ることができ、ドメインの取引停止を受け、ブランド保持者はドメイン所有者との交渉を有利に進めることができるようになるかもしれません。
しかし、この手続で取引を停止できるのは、通知を行った取引所(マーケットプレイス)のみなので、たとえOpenSeaで取引ができなくなっても、.ethドメインの所有者は、別の取引所に出品することは可能です。
2.ACPAを活用してドメインを無効にする
2つ目の手段として、アメリカのACPAは、.ethドメイン名に対するインレム管轄権(in rem jurisdiction)を提供しています。これは、サイバースクワッティングで訴えられた人ではなく、物理的な資産に対する管轄権があることを意味します。
しかし、このACPAを用いた手段は、ドメイン名を発行したレジストラ(registrar)が所在する場所でのみ使用することができます。つまり、事業体が管轄権上、米国に所在していない場合、このような手続きをおこなっても無駄になります。しかし、人気のある.ethレジストラの1つであるUnstoppable Domainsは米国に所在しているので、Unstoppable Domainsに対する手続きとしては有効です。
この手続は、成功すれば、ブランド所有者はそのドメインを永久に無効にすることができます。これは、1つ目のテイクダウン通知よりも強力です。テイクダウン通知では、.ethドメインの所有者が別の取引所に出品することは防げませんでしたが、ACPAを用いた手続きの場合、.ethドメイン名自体が無効になるので、取引が完全にできなくなります。
今のうちにENSドメイン名を所有しておくべき?
ブランド企業は、今後の.ethドメインの需要を見据えて、自社の商標に関わる.ethドメイン名を確保しておいたほうがいいのかもしれません。特に、有名な商標である場合、メタバースやNFTに関連ない企業であっても、.ethドメインを保持しておいたほうが懸命かもしれません。
特に、ENSに関しては、DNSとの違いもあり、既存の法律適用がなかったり、今の枠組みではサイバースクワッティングに有効な対策が取れない可能性があります。そのような状況でサイバースクワッティングの被害にあってしまうと、その状況が野放しにされてしまい、今まで培ってきたブランド力が低迷してしまう可能性があります。
ENSには.ethドメインの他にも.nftなどさまざまなドメインがあるので、どこまで防御策として取得するべきかは悩ましいところですが、今後時代がWeb3に移行していく中で、ESNに関しても戦略的な対策が求められることになるでしょう。
参照文献:Web3 Leads to Cybersquatting 2.0: Here’s What Brands Can Do